受賞インタビュー 
(日本大学新聞 第1112号に掲載のものに著者校正として加筆)
大倉(敬称略)
    タイ人と日本人のハーフの主人公の気持ちが非常にリアルに描 かれてますが、ご自身もひょっとしてハーフなのでしょうか?
白石
    今回に限らず、読んでくれた人によく、実体験でしょう、って言われるん ですけど、見ての通り僕はバリバリのにっぽん人です。去年、まだ会社員 として働いていた頃正月休みにタイにいったんです、遊びに。そのときに ついてきた同じ会社の人おじさんが偶然、タイに住んでて、お会いして食 事、ごちそうになったんですよ、スゲェ高い店で。その人は奥さんがタイ 人で、六歳くらいの息子さんがいるんです。そのときは息子さんと二人で 来てたから、ちょうど四人でメシ食ったんですけど、その子と話してて、 インスピレーションが湧いたんで、とりあえずその場はネタ帳に落書きし といて、半年くらい経ってネタが発酵した頃合いを見計らって、一週間く らいで下書きしました。ちょうど、会社を辞める寸前だったので、いつに もまして集中できて、ほとんど恐山のイタコ状態で、何かにとりつかれた ように一気にやっちゃいました。
大倉
    タイトルになっている、抜塞、は空手の型ですが空手を習っていたことが あるのですか?
白石
    高校生の時に当時の大道塾長崎支部に入門して、西良典師範に指導を受け ました。その後東京に出たかったので、師範に当時の大道塾千葉支部長、 佐和田亮二師範を紹介してもらい、千葉で稽古するために生産工学部に行 くことにしました。この二人から学んだことは書く上ですごくためになっ てます。八年前、初めてタイに行ったのも、空手道を学ぶ上でタイボクシ ングの技術を取り入れることがプラスになると思ったからです。なんだか んだいってそれから、今まで十回以上タイに行ってます、あそこは多民族 なんで、山岳民族の村や、すげー田舎になんかにいきなり行って知らない 人の家に泊めてもらったりするのがむちゃくちゃ面白いです。
大倉
    小説を書くようになったきっかけは?
白石
    五年前に神経症にかかっちゃったみたいだったんで、リハビリのつもりで 書き始めました。もともと本を読むのは好きだったんで、あまり深く考え ずに、初めて書いたヤツを文學界新人賞に応募したら一次選考通っちゃっ たんで、何となくしょうがないって感じで書き続けてます。今は、 オール・スパイス っていう同人誌に小説や読書感想文を書いたり、懸賞に応募したりしてます。
大倉
    今回の作品は文体に独特の味がありますが、影響を受けている作家がいる のでしょうか?
白石
    生産工学部の岡田充雄先生に、ドストエフスキーを読みなさい、っていわ れて、会社員時代に通勤電車の中で比較的まじめに読んでたんで、その影 響で初期の『貧しき人々』、『地下生活者の手記』から書簡体と独白体を それぞれパクってごちゃ混ぜにしました。外国の小説家ではフォークナー、 マルケスが好きなのでこの二人の影響は受けているのかもしれません。あ と、国内では中上健次。彼にすごく影響を受けました。彼の作品はレヴェ ルが高いので、読んでくうちににっぽん語で書いていく上でのひとつのプ ロセスを示してもらったような気がします。
大倉
    今後の執筆活動のご予定は?
白石
    とりあえず、長崎県の交換留学生として渡泰する事が決まってますので、 三年くらい、タイに腰を落ち着けて四四四枚くらいの長さで五年前からず っと書きたかったヤツを書くつもりです。その後は、S・ヘディンって言 うスウェーデンの探検家に興味があるのでストックホルムに三年くらい 居ていろいろと調べるつもりです。こないだ明治学院大学での中上健次国 際シンポジウムに参加したんですけど、出席していたカリフォルニア大学 のフェイ・ユアン・クリーマンさんが中上の作品を、ディアスポラ、って 言葉を使って解説してて、その言葉がなんとなくツボにハマったんで、そ んな感じの作品にするつもりです。もともとはユダヤ教徒的な場違いな状 況とか、あっちこっちに散らばる事を象徴した言葉だと思うんですけど、 この作品に出てくるボブ・マーリィもルーツ的にはディアスポラ、って気 がします。タイにいる間はずっとタイ語の勉強と平行してにっぽん人が書 いたディアスポラ文学的なものに取り組みたいとおもっています。あとも し、僕の作品を読んでムカついたとか、ひとこと言いたいって人がいらっ しゃいましたら、hinkaw@chan.ne.jpまで電子メール打って下さ ると有り難いです。宜しくお願いします。


インタヴュー: 大倉真登佳(日本大学新聞社)
写真  : 菊池美紀


しらいし のぼる
     昭和四十四年五月一日長崎県生まれ。長崎日本大学高等学校卒業、平成五年生産工学部機械工学科卒業。現在「藝術家」として創作活動を続ける。最近は、千葉麗子の本を片手にインターネットのホームページづくりをはじめた。
E-Mail:hinkaw@chan.ne.jp
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