藝道日記。(平成 12/02/24)
平成十二年二月二十四日

 前の日からそういった予兆はあった。この日朝から疲れていたのは、前の日から家に帰ってないせいに違いない。

 前日、家に帰っていないのは、とある関係者から、日本チャンピオンがお忍びで試合をするから見に来ませんか、と言うお誘いを戴いて夜十一時までボクシングの試合を見ていたからだった。


 せっかくのお誘いなのでその関係者に電話をかけて、最近よくボクシングの観戦記を書いている友人の犬巻カオル(以下「犬」と略)も一緒に連れてっていいですか? と聞くと、選手にむかって吠えたり噛みついたりしなければいいです、と言うありがたい御言葉を戴いた。

 ええしっかり首に鎖つけておきますと、答えて、犬に電話すると、噛みついたりしないから、エッチなカッコしてっていい? と聞くので許可したら犬は予想通り購入したばかりのフリンジびらびら革製ブラジャーと短パンで来た。
 




犬巻カオル様。


 犬と一緒にBTSの駅で待ち合わせて、現地に向かう。犬は恒例の中国取材旅行から戻ってそう日も経っていず、鋭気をたっぷり養ってきたのか、私生活も自分のサイトもノリノリのいい具合なので、列車に乗った途端、車両の中で踊り始める。

 すかさずデジカメでその様子を撮影しながら私は、きっとこんな風に私たちが車内で遊ぶためにタイの土木労働者は毎日一生懸命高架鉄道建設に従事したんじゃないよな、と思い、少し心が痛くなったが、面白いのでシャッターを押す手の動きを止める気は毛頭なかった。

本人たっての希望により、この写真だけ修整しました。



 最近すっかり髭を剃ってない私とどう考えても素人じゃない格好をした犬は、端から見たらどう見てもエロ雑誌のカメラマンとモデルにしか見えないだろうな、と思う。当然乗客も私たちを見てひいていたのか、まわりに人はほとんどいない。

 そうして現地に着き、観戦を終えて関係者に挨拶して犬と別れ、カオサンに来ているらしい友達二ヶ所ほど顔を見せに行き、二ヶ所目で、最近藝人として白石昇の姿勢に問題があるのではないかと叱られながらウイスキーをご馳走になったため、そこでガンガンに飲んでしまい酔っぱらいながらそうだ藝人としてこのままじゃいけないと思いすっかり落ち込んだ。


スポーツ新聞風俗面のカメラマンと、
売れっ子フードル(嘘)。

 落ち込みついでにそのまま友人及び友人の友達数名とクラブに流れ、途中ですげえコクエなアフロ系イギリス人ねーちゃんを発見したため、男と一緒にいるにもかかわらず男もろとも声掛けてゲットし、クラブに行って二人で向き合って仲良く踊っているといつの間にか凄い時間になっていたので皆さんに別れを告げて知人の家に行ってちょっとだけ寝たらもう朝になっていた。

 


おねえちゃんかわいい(当然右)。


 そういう前日夜の状況をふまえて今日の朝である。脳の鈍痛を自覚しながら、二日酔い時の習慣であるアルツ度チェックをしているうちに、昨日の晩の断片的な記憶の中から、今日で自分が入国して二ヶ月目だと言うことを思い出す。今日中に入国管理局に行かなければならない。

 とりあえず、このあと昨日ご馳走してくれた友達と朝メシ食ってATMで金おろそうとすると泰農民銀行のキャッシュカードが使えずやべえとおもって農民銀行バンランプー支店で使えるようにデジタル的な手続きをして貰って一安心したことはそう重要じゃないので省略及び割愛して、入国管理局に向かう。


 入国管理局に行き、前の写真屋でさくっとコピーをと写真を撮り、窓口に行くと、二階の事務所に行けと言われる。私はこれまで二階の事務所にはビザの再延長の時にしか行ったことがない。今から思い起こしてみても通常の延長手続きとは明らかに違う、しかし、その時の私はまだ事態の重要さに気づいてはいなかった。

 事務所に行ってパスポートを出すと、係官のおじさまに、三日分、六〇〇バーツ、と言われてそこで私は初めて事態の深刻さに気づく。おじさまの指がパスポートの2月21、と言う数字を指し示している。その指を見つめながら私の頭はなんとかそれらしきスピードで回り始めて、自分がビザの有効期間六十日を二ヶ月と取り違えていたことに気づいた。

 


 一瞬、目の前が真っ暗になるが、おじさまは、早くこの頁のコピーも取って金もってこい、というような意味のタイ語をもう少し丁寧な言い回しで口にするだけだった。じゃあ、このダブルのビザ、もう二ヶ月分はどうなるの? 素早く我を取り戻して私はおじさまに聞く。

 使えないよ、21日でこのビザもう終わっちゃってんだから、おじさまはこともなげにそうおっしゃり、私はおじさんの圧力に気圧されたまま、すごすごとコピーを取りに入国管理局の建物を出てそのついでに滞在延長費と不法滞在の罰金をATMで引き出した。両方合わせて1000バーツほどだ。
 


 その額を思い起こすだけで痛いので、現実逃避するためにここでタイのビザについてご解説さし上げておくことにします。 

 え、通常泰国で日本人が仕事するには就労許可、と言うものがいります。しかしこの許可はこちらで登記された企業及び、日本国もしくは泰国の公的な団体に所属するものにしか発行されません。私のようなフリーの藝人は観光ビザで滞在するしかないのです。しかし、仕事と言っても私の場合、こちらの企業からバーツで収入を得ているわけでなく、ほとんど無収入なので観光ビザで仕事してもかまわないのです。

 あ、ここで言う仕事というのは、賃金収入を伴わない製作活動の事ね。と言うわけなので今年のようにたまにコンクールの賞金が入ったとしても、それは日本国内での収入なのでいっさい問題はないわけです。私は一切不法就労はしてません。

 で、私が今回取ってきたビザというものは東京産のダブルビザ、と言う優れもので、これは二ヶ月の滞在を終えると一ヶ月延長できて、その後は一度国外に出るだけでもう一回新しいビザが二ヶ月分有効になると言うものです。それも同じように更に延長できるので、ダブルがあれば、半年間新しくビザを取得しなくてもいいのです。


で、こうなりました。(クリックすると拡大。)


 と言うわけで今回のミスで私はまるまる三ヶ月分のビザ代三千円をドブに捨て、今日から一ヶ月以内に国外にビザの更新のために出なければならなくなった。手痛い出費である。

 


 写真屋さんで撮っていただいたコピーを抱えて、とりあえず私は一ヶ月以内に泰国最北端メーサイの国境から少しだけビルマに入って再入国し、も一度一ヶ月滞在できるようにして、四月にまたマレーシアで新しくビザを取得すると言う方針を打ち出した。理由を説明し出すとこれまた長くなるので止めておく。だって説明するだけで痛いもん。

 疲れたので、それでは。
 


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