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今日の素敵なにっぽん語。 女は性行為をしたがるものなのよ。
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わたくしは四月の中旬にビザを取りに一度国外に出る必要があるのでマレーシアに行くことになっておりました。それは別に泰国大使館があってお金と時間がそんなにかからなければカンボディアでもラオスでも緬国でもどこでも良かったのです。 が、ちょうど、マレーシアのメル友からぜひ来てくれと誘われていたし、いつも可愛がっていただいているボクサーのアタル選手が泰南部のナコンシータマラートで練習しているのでついでにそこも訪ねることにしたのです。 それらの計画を電話で話すと友人の犬巻カオル様(以下、犬様と略)は、あああたしもそろそろ切れんねん、なら、一緒にアタルちゃんとこいこか、とおっしゃいましたので、わたくしは適当に相槌を打っておいたのです。 が、何日か経って気がつくと犬様はバス切符の手配からマレーシアリンギットの両替まですべてやってくれております。あらあらあらあら、と言った感じです。が、しかし結局のところ自分で何もしなくて良いのですからとても有り難いことです。 でも四月に入って突然、南部のアタル選手から、俺怪我治りませんから一旦日本帰ります近日中にバンコクに行きます、という内容の長距離電話が南部からかかってきました。 あらあらあらあらしかし時はもう既に遅し、準備のいい犬様は、泰正月の混雑を避けて早めにバス切符を購入されてしまっていたのです。行ってもアタル選手はもう南部ナコンシータマラート県にはいないというのに。完璧なまでのすれ違いです。 とまあこういったいきさつでわたくしと犬様はとりあえず購入済の切符に従い、ナコンシータマラートに行かねばならなくなったのでした。 で、当日わたくしと犬様は白米通りで待ち合わせておったのです。わたくしは某日本人専用安宿で電話回線使わせて貰い旅立ち前のサイト更新しておったのですが、そうしたら待ち合わせの十八時をさくりとオーヴァーいたしました。 わたくしはびくびくしながら三十分遅れで待ち合わせ場所のマッサージ屋に行きますとと犬様は当然のようにキレキレでいらっしゃいました。しかし、わたくしには昨日うちに遊びに来た某王立大学大学院在学中のエリート大学院生から貰ったマスクメロンという貢ぎ物があったのです。 マスクメロンを見せると犬様は、国境で免税のヘネシー買ってヘネシーメロンやろうヘネシー代はあたしが出したるから、といきなり驚くほど簡単にご機嫌まっすぐになられました。 昨日大学院生からいただいたときには貰ったときは、こんな高そうなメロンを雑食性で何でも食うわたくしに下さるなんと申し訳ない、と思ったのですが、犬様のご機嫌が真っ直ぐになったのをまのあたりにしてわたくしは、心の中でエリート大学院生に感謝のお祈りを捧げるのでした。
わたくしは卵豆腐スープを美味しくいただきました。犬様はちゃんとガイドブックを取り出して今後の予定を練っておられます。彼女の予定ではとりあえずナコンシータマラートに着いたら、それからすかさず比較的物価が安いと思われるクラビのビーチへ移動し、そこでしばらく過ごすと言うことになっているようでありました。 時間が来てバスに乗り込みますと、それはもう二階建てのゴージャスなバスでありました。座席も大きく、白米通りで予約するバスよりは遙かに快適なのです。わたくしはさすがに犬様、と感心しきりでした。が、しかしわたくしたちは二階の一番前の席に座るように言われました。目の前にはフロントガラスしかありません。
仕方がありません。追突の際には立派に美しいドロップキックをお見せすることに致しましょう、とわたくしは固く心に誓ったのです。 やがて長距離バスお約束の映画が始まりました。最前列のために当然斜め右方向の至近距離にモニターがあります。もしひねりを加えた腹筋運動を始めたなら、額をしたたか打ち付けるような距離です。だから映画を見るためには多少不自然な姿勢をとらなくてはなりません。窓際に座っていらっしゃる犬様はなおさらです。
映画はもちろん泰語吹き替えでありました。隣の犬様と日本語でお話ししながら画面を眺めておりましたので、良くストーリーはつかめないままでしたが、ベトナム出兵のトラウマを持つらしい男の話で、主人公とは関係ない太ったオヤジがいきなり出てきたと思うとガラスの容器でヘロインを吸引し始め、吸ったかと思ったらいきなり倒れて床で痙攣し、その後すぐに復活して主人公の男も一緒にヘロインを再び吸い始め、そのトリップイメージ映像が延々と続きます。 主人公はいきなり車の運転を始めて凄いスピードで走り始めると脈絡もなく画面に出てきたロケットが爆発したり坊主頭のでかい男から逃げ回る羽目になったり頭に有刺鉄線を巻いた基督みたいな上半身裸の男がシャワー室に倒れてたりラバーマスク被ったボンテージ男が大写しになったり口に赤いボール状の猿ぐつわ噛まされたねーちゃんがそのボールの周りから舌を出して抵抗したりなどの幻覚を見るのですが、当然彼が幻覚を見ている間、私たちもその映像を見なければなりません。 そしてその主人公の男は乳の小さなねーちゃんと一発やるのですが、何故かそのねーちゃんが、
と言ったその言葉が主人公の頭の中でリフレインし、エコーがかかっていくのす。わたくしが大爆笑しておりますと、犬巻様が、なんてゆうてんねん、と訪ねられます。 女はセックスをしたがるものなのよ、と言っておりますしかもリフレインでエコーまでかけて、とわたくしが直訳して答えますと犬巻先生も大爆笑されました。 そしてその映画はあいもかわらない幻想の中、何人か人を殺し、最後に倉庫に火を点けてめでたしめでたしとなります。BGMがストーンズであることからどうやらアメリカ映画だと推測されるのですが、出ている俳優も映画の題もまったくわからないので、もしよろしければメールで教えていただくと有り難いです。 で、ひとしきり盛り上がったあとやがて映画は終わりました。そしてすぐ休憩のためにバスは停まったのですが、停まるとすぐ犬様が、あんた、場所とりすぎやで、とおっしゃいます。あれそんなはずはない、と思いわたくしが並んだ犬様とわたくしの座席の境界を確認してみました。 すると座席の境界からはみ出していたのはわたくしの臀部ではなく、犬様の臀部であることが判明いたしました。それも並のはみ出し方ではありません、彼女の臀部は私の座席をソフトボールの三号ボール以上の範囲に渡って激しく浸食していたのでした。 機嫌が悪そうなので、私はその濡れ衣に対して犬様を咎めることはせず、バスを降りました。そうです。VIPバスにタダでついてくるお夜食の時間です。お粥食い放題です。わたくしと犬様はバスを降りると社会に何か憤りを感じている労働者のように黙って鬼のようにお粥を掻き込み始めました。
もう私たちのテーブルで食べ続けているのは私と犬様の二人しかいません。さっきの座席侵犯発言といい、今日の犬様はとても不機嫌です。わたくしはきっとそれは私が待ち合わせに三〇分も遅れたからなのだろうなと思い、大人しくしておくことにしました。 死ぬほど食って腹一杯になったわたくしは極力自分のシートのスペースを犬様に譲るよう心がけながら横になりました。暗闇に落ちてゆく意識の中でなにかものすごく理不尽なものを感じましたが、集合時間に遅刻した自分が悪いのだ、とだけ呟き、その他のことは何も考えず眠ることにしました。 平成十二年四月十一日(火)につづく。
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