藝道日記。(平成 12/10/05)
平成十二年十月五日(木)。


 朝から野菜を買いに行こうと、愛車港町十四番地号(今日命名)に手をかけたのですが、バックが出来ません。そうです。ゆがんだ後輪の障害が行くとこまで行きやがったのですこのチャリ。

 とりあえず前方には回転するので重いペダルを漕いで工場裏ジャングル集落を走りました。そうそう、以前ここで工場裏をドブ上、と形容しましたが、よくよく俯瞰してみたら単にジャングルのような湿地帯に高床式の住居やバイクまでしか通れないこれも同じく高床式の道路が造られているだけのような気がしてきました最近は。

 そしてわたくしはほとんど行軍骨折状態の港町十四番地号を二軒並んだうち、右のチャリ屋さんに持ち込みました。購入したのは左の店なのですが、一度チェーンの修理を頼んだときにおっちゃんが今日は脇腹を怪我してるから仕事できない、と言ったので、それからわたくしは港町十四番地号のかかりつけを変更したのです右の店に。


 こないだ日本からお客様の@luk様御夫妻が持ってきてくれたバーコードヅラのような頭をした右のおっちゃんは、無表情のまま、取り替えなあかん一四〇バーツや、とおっしゃいます。わたくしは有無も言わさず港町十四番地号をおっちゃんに預けました。おっちゃんは、昼までにやっといたるから昼過ぎにこいなあ、とおっしゃいます。当然関西弁でなく泰語で。

 と言うわけで愛車を預け、わたくしは農民銀行まで歩き、キャッシュカードで二〇〇バーツほど引き出しました。そしてすかさず市場に行き、味噌漬け用野菜及び鶏肉、発情強精用鶏卵一〇個、アルツ調整用葱などを買い物。

 信じられないくらいの値段に野菜葱をまけてくれた八百屋のおばちゃんに感激しながらわたくしは市場内に入り、一軒の泰味噌屋で足を止めました。そしてそこであと一ヶ月ちょっとで来日しなければならない自分の調味料味噌蔵状態など考えもせず、購入したのは海老味噌。
 



全部でえーと、
六十バーツ。


 市場を出ると思わずいつものように鶏卵が十個入ったビニール袋を口にくわえましたがよくよく考えると今日はそんなことをする必要がないのです入院中なのですから港町十四番地号は。

 すがすがしい気持ちで歩いて運河の橋を渡り、ジャングル高床式集落に入りました。そしてそこでいい匂いを発てていたのがシュークリーム。

 当然一個だけ購入してすかさず食いましたが、そのノスタルジックな風味がたまらないのですそれは本当に。

 引き続き集落の中をガンガン歩いてゆくとじきに歩くこと自体にハマってしまい、気がついたらわたくしは木炭購入を忘却したままアパートメントに到着。

 しばらくわたくしは入口の総菜屋さんのトレーを眺めました。ここのねえさんは敬虔な回教徒で、当然豚料理は商いません。当然最近、わたくしが可愛がっていただいてる一階のミニマート出来た為、著しく売り上げに支障が出ているようで少し真剣ピリピリの模様。
 


 そういった背景とは関係なく美味そうだったのでわたくしは水牛し、グリーンカレーを一袋購入。

 そうして部屋に戻るとじきに電話がかかってきました。受話器を取ると管理人室にいるわたくしの泰語朗読師匠である管理人一家次女女子高生の声です。やあおはようございます。どうしたんですか先生? そんなわたくしの挨拶を黙殺する形で朗読師匠は、人が会いに来ています、と事務的におっしゃいます。わたくしは、すぐに降りてゆきますですはい、と言って受話器を置き、急いで裸族状態の身体に纏ったのです浴衣を。

 部屋を出て階段を降りながら、どう考えてもこの時間帯にノンアポで来るのは身元保証人の工場で働く伝令嬢様だよなあ、と思いました。そしてそういう場合その伝令嬢様は身元保証人に書かれた日本語の手紙を持っているのです。わたくしはもしかしたら浴衣問題が彼の中で止めようもない憤怒にまでなり、絶縁状が運ばれてきたのかな、と思いました。彼の希望に逆らい浴衣を着てこの街をうろつくわたくしはいつ絶縁されてもおかしくはありません。そして降りていったわたくしに伝令様から渡されたのは予想通り日本語の手紙。
 



原文ママ。

彼は泰国籍潮州系華僑ですが三世なので中国語は喋れず、
ちゃんと漢字教育を受けてません。読みにくくて御免なさい。

 やあノビー、君は、大学時代から実に十二年来の友人である僕の大事な身元保証人を、
一体どこに連れていこうとしてるんだい? 答えてくれよノビー。

  


 わたくしはそう頭の中で呟き一気に全身から脱力。

 と、言うわけで、彼の要望に心当たりがあり、御来泰予定がある方はお客様ご相談窓口に名乗り出て下さい。メールでもいいです。ご自宅に転がっている古本で一向に構いません。あ、文庫本にして下さい高いから。集英社文庫です全部。

 ノビーは集英社系以外の会社では仕事してません多分。取引条件として定価の半額に相当するバーツ現金か現物、もしくは身体で支払う所存。

 どうか宜しくよしなに。

 そうそう今日、椰子の実が頭に落ちてきた人を始めて見た。漫画みたいだったけど凄く痛そうだった。一気に三個直撃。
 


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