藝道日記。(平成 12/04/05)
平成十二年四月五日。

 
日付
書いた枚数
合計
04/02
9
251
04/03
18
269
04/04
0
269
04/05
3
272

 と言った感じ二七二枚の下書きが終わる。でも最後はまだ書いてない。書き直すことを考えると頭が痛いのでとりあえず考えないようにした。朱入れのために一度紙に印刷した方がいろいろと都合がいいので、AG様にプリンターを使わせて貰う為に出かけることにする。うちを出て港に向かい、港でカオマンガイ二十バーツ食う。


  しかしその後どうしても我慢できなくて更にすぐそばにある違う店でカオマンガイ二十バーツ食う。松屋で牛めし食ったあと、すぐに隣の吉野屋で牛丼食うようなものである。久しぶりに外で食事するために浮かれているのか自分でも自分が毀れているのがよくわかる。

 エアコンバスに乗って終点までぐっすり眠り車掌のおばちゃんにたたき起こされて起きる。それから歩いてテラスゲストハウスへ。テラスにつくと待ち合わせしていたAG様はいない。
 


 電話しようと思ったが電話番号を書いた手帳を忘れている事に気づき、リンダ姉さんに聞く、リンダ姉さんはAG様と同じ賃貸物件に住んでいるくせにアパートの電話番号を知らない。

 姉さんは自分が住んでいるとこの電話番号を知らないんですか? 私はそう食ってかかるが、よくよく考えてみたら私も自分が住んでいるところの電話番号を暗記していないことに気づく。人の事は言えない。



 その後無事AG様が現れ、そのまま二人でお宅まで行き、プリンタにノートパソコンを繋いで印刷する。A四にして四三枚。書き直すことを考えると凄く痛いので、出来るだけプリンターが吐き出した紙を見ないようにして印刷を進めるが、紙がプリンターから吐き出されてくるところを目の当たりにするだけで痛い。

 AG様のお宅には何故か若い男の子とimacが置いてある。imacはどうやらその若い男の子が日本から持ちこんだらしいことが判明。その部屋に置かれている置物みたいに不思議な存在感を持つ男の子はこの近所に部屋を借りたらしく、これから一年こっちに住むそうである。なかなか前途有望である、と思う。


 AG様に御礼を言い、食事に誘われるがナコーンシータマラートから戻ってきているアタル様と約束していたことを思いだし、アタル様の宿に行く。部屋のドアをノックして入るとウルトラマンのお面を被って出迎えてくれる。相変わらずのボケに面白いと言うより懐かしさしか感じない。

 アタル様はこの半年間に南部のナコーンシータマラートで四KOを含む六連勝の負け知らずという結果を残したが、怪我が治らないので治すためにいったん日本に帰る、と言うことだった。
 


 膝とか肘とか腰とか痛めている箇所はたくさんあったが、一番酷いのが、試合で前蹴りを蹴ったときに相手の前歯で切った足の裏の傷だという、もうすっかり塞がってはいたが、それは見るからに広い傷口だった。触ってみると明らかな異物感が感じられる。

 マウスピースしてなかったんだ相手、と言うと、ええ、でも俺もしてませんでしたけどね、とアタル様は笑って言う。なんか、いつまでたっても痛みが引かないんでちょっと切ってみたら膿が出てきたんですよ、縫わないでいい、ってジムの人に言われたから縫わんかったんですけどね、と言う。
 



 
 
 
 

 前蹴りというのは、こんな技です。
(泰燐寸株式会社、マッチ箱の裏より。)



 

 こういう自分の状況を悲壮感なく自然に口に出すことが出来るのが、アタル様のすごさだと私はいつも思う。いま、タイだけで五〇戦以上試合している日本国籍のボクサーは私が知っている限りアタル様以外に誰もいない。

 アタル様に五輪真弓のカセットを貰う、と言うより強奪する。合計五本。バンコク広しといえどもこれほど五輪真弓のカセットを持っているのは私が知っている限りアタル様以外に誰もいない。
 


有り難うごございます。大事に聴きます。


 二人で食事に出る。私はアタル様と一緒にめし食ってるだけでなんだか試合当日の計量を思い出し、二人前も食ってしまう。計量後のボクサーは私にとっていい食欲増進剤である。どうしてボクサーを見るとたくさん食いたくなるのか、理由はまだわかっていない。

 バンランプーをパトロールしに行くんですわ、とアタル様がおっしゃったので、しばらく一緒に歩いて別れた後、再びテラスゲストハウスに行く。行くと仲のよい女の子がギターを買ってきたらしく一生懸命練習していた。
 


 私はここ二年でギターを弾けるようになってストリートミュージシャンとして聴覚的言語藝を確立しなければ、と言う使命があるので、ついつい借りてしまう。それで、三つか四つほどコードを覚えるともう夢中になって見事にコードの反復練習にはまる。

平成十二年四月六日に続く。
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