藝道日記。(平成 12/04/06)
平成十二年四月六日。

 気がつくともう一時を過ぎており、誰もいなくなったところで一人ギターを弾いている自分がいる。しょうがないので引き続ける。ダメだなこれはギター買ったらすぐ調子に乗るな、と思ったところで皆さんが戻ってくる。

 いつの間にかいなくなったギターの持ち主も戻ってきて、もう寝るから返して頂戴。と私からギターを取り上げる。かなりお怒りのようだ。嫁入り前の娘さんをこれほどまで怒らせてしまい、非常にまずいことをしたのでは、と思いつつ、その場にいた、田口ん坊を誘って飲みに行くことにする。一応下書きが一段落したのだから、今日の私は弾けなければ気が済まない。


 あっという間にウィスキーのボトルが一本空く。私も飲んだが、田口ん坊もかなりのペースで飲んでいる。そのうち、カオサンで時計屋をしているお友達の姉ちゃんが通りかかり、明日は祝日だから遊びに行こうといわれる。じゃあカラオケに行こうということになったらそこに某サイヴァーカフェのネットワーク管理者が通りかかった。

 暑いので浴衣に着替えて飲んでいるとなんだかんだでボトルが一本空いた。ネットワーク管理者の提案でピンクラオ橋向こうのカラオケ屋に行くことになる。近くじゃない、と言うことで時計屋のお姉ちゃんは帰る。店を出るが田口ん坊がもう眠くて酔っぱらっての両方でふらふらよろよろ歩いている。
 



  車を持っている友達が、スヌーカーをやっていると言うことなので迎えに行くが、そのスヌーカーのプールがある店の前で、一人の若者が叫んでいる。その隣はラジカセを肩に担いだヨーロピアンだ。若者はどうやら日本人らしい。私からはヨーロピアンと日本人が喧嘩しているように見えた。

 私は人が注目しているその真ん中に入ってゆき、ヨーロピアンに向かって、何が起こったんだ? と聞く、ヨーロピアンはラジカセを肩に担いだまま、何もないよイエーイ、と言って再び踊り始める。その、ヨーロピアンの発した、イエーイ、がまるで高島忠夫の発音と全く同じで、なんだか小馬鹿にされているように感じた。
 


 しかし、何もトラブルは起こりそうにないし、ヨーロピアンはただ踊っているだけで害がなさそうなので、そのまま通りに出されたテーブルの客が注目する中立ちつくしていると先ほど叫んでいた日本人の若者が近づいてきた。

 どいつもこいつもなめやがってえ、と言うような意味のことを若者は言った。しかし、どうやらそのヨーロピアンと揉めているようではないらしいし、かなり酔ってはいるがこれ以上問題が起きそうな様子ではなかったので、離れようとすると若者が近づいてきた。



 若者は私に向かって、あんた日本人やろ、俺も日本人や、あんた、なんやそのカッコはと言う。もう一人比較的酔ってなさそうな日本人の若者が近づき、その酔った若者を後ろから抱きかかえ、お前もう酔っぱらってるんだから、すわろ、と言って私から引き離しながら、ひとこと、すみませんこいつ酔ってるんです、と言ってテープルに戻っていった。

 ビリヤードプールの脇にいるネットワーク責任者のところに戻ると、どうやらその酔っぱらい若者は、この店の店員ともめ事を起こしたらしいという説明を聞かされる。私はなんだそうだったのかあ、と納得がいきながらも、若者に言われた、なんやそのカッコは、と言う言葉を思い出し、その発言について納得が行かなくなる。
 


 浴衣着て外を歩くより、店員ともめ事を起こす方がよっぽど日本の恥だと思うぞ、第一人に迷惑がかかる、とひとりごちながら私は、ビリヤードをしている友人の、このゲームが終わるまで待ってくれ、と言う言葉を聞き、とりあえず席に座る。

 そして思い出したように田口ん坊の姿を探すがなんのことはない、田口ん坊は私の目の前でテーブルに突っ伏して潰れていた。声をかけるとぐらりと傾いでゆっくりと起きあがり、ぼくもほだめでしゅゅうやろにいくわえりましゅう、という呂律が回らず聞き取りにくい言葉を残して宿の方に向かって歩いていった。私の、おやすみなさーい、と言った言葉は聞こえてないようだった。



 結局三人で車に乗り、川向こうへ。十曲以上歌う。VCDではなくMP3カラオケなので、モニターに近づかなければ歌詞が読みにくい。浴衣を着てきたにもかかわらず、『昴』を歌うまで他のテーブルにいる客は私のことを日本人だと気づかなかったらしい。

 『悲しい色やね』を歌ったとき以来、ネイチブカラオケで日本語の歌を歌うのはこれで二回目だが、泰文字で書かれた日本語の歌詞を読みながら歌うのは非常にやりにくい。凄く言語的な違和感と不自由さを感じる。それにそう言う歌詞は間違いなく何処か泰文字の置き換えがまちがっていたりするから歌ってて更に気持ちが悪い。
 


 さすがに隣県にある私のアパートまでは無理なので、車でカオサンまで送ってもらい二人と別れる。午前五時過ぎ。空が仄かに明るい。しばらく知人女性の部屋で休ませて貰おう、と思い宿を訪ね、ラジオ体操しよう、と声を掛けるが、重く低い声で、だめえ、と言われバスに乗ってアパートまで戻る。戻って死んだように眠る。

平成十二年四月五日に戻る。
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