藝道日記。(平成 12/09/27)
平成十二年九月二十七日(水)。


 通訳の仕事の報告に言ったんですよ隣の社長令息んとこに。

 で、ヤツの相変わらずの保守性にツッコミ入れてたら、この辺で浴衣着て歩くのはやめてくれ、って言うんですよヤツは。理由を聞くと、目立つと悪い人に狙われる、というものらしいんですけど、その理由にむちゃくちゃ納得が行かなかったんで、目立たないようにするんならもうここに引っ越して九ヶ月くらい経つんだから今更無理だ、って要求拒否してきたんですけどね。
 

 
  で、社長令息が言うには、君が近所の人に親切にされている、ってのは君がそう感じてそう思っているだけで、あっちは心の中で何考えているかわからないからね、って言うんですよ。

 それはそうかもしれないなあと私は部屋に戻り、料理をしようとしたのですが、包丁を探すとないのす。よくよく考えてみればおとといの早朝バルコニーから隣の椰子畑に落としたことを思い出したんですよ。



通訳の仕事に行く直前に椰子畑に潜入して取り、それをミニマートのおばちゃんに預けたまま忘れてたんです。

 ちょうど二軒先の工場から茉莉香米が届けられたという電話がミニマートからあったので、階下に降りてそのついでにおばちゃんに、預けてた包丁頂戴、と言ったのです。

 おばちゃんはああそうね、と私に包丁を渡しながら、あんたこれ危ないから気いつけんのよすごく切れんだから、とおっしゃいます。良く刃先を見るとグラインダーで研いだあとがあります。
 

 
 (泰語圏公式藝名)がこんなに切れない包丁使ってて可哀想だから研いでおいたわよ。とおばちゃんは言いました。

 私は感動に打ち震えながらおばちゃんが心の中で悪いことを考えていてそれが原因で私が危険な目に遭いこの地で命を落とすことになっても、それはそれで満足して人生を終えることが出来るだろうなと一瞬だけ思ったのでした。
 


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