「こっちはあなたみたいな素人じゃないんだからちゃんと担当者の状況は調べた上で言ってるんです。そんな見え透いた嘘を付くのはやめて下さい。」あたくしはさすがに腹が立ったので強い調子で言うと某ライターさんは肩を落としすごく大きな身体を小さく丸め、黙った。
ライターとして収入を得はじめる前、ただの旅行者だった頃からあたくしは彼のことを知っている。なぜなら彼の書いたものを最初にインターネット上で発信したのはあたくしだったからだ。その頃の彼はこんな風にその場しのぎの嘘を吐くひどい人間ではなかった。こうなってしまったのは、なにかおかしな意図の元に動いているいいかげんな世界の慣例を彼が受け入れてしまったからだと思う。
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あたくしの意思がどうにもならない、と思ったのか彼は、
「いいよじゃあ、好きなようにすればいいよ」と言い、微かに笑顔を見せた。それがこの何年かずっとあたくしからなにか言われたときに逆ギレして見せるときの表情ではなく、何か憑き物が落ちたような表情だったので、あたくしも思わず表情を緩め、
「うん。やめろって言われても好きにするけどね」とにこやかに答えておいた。
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