よいこの読書日記−平成9年7月


読んだ本

07/02 竜馬がゆく(一)          司馬遼太郎  文春文庫
07/03 ドストエフスキイ           加賀乙彦   中公新書
07/11 もう一つの国            ボールドウィン  集英社文庫
07/12 アムリタ(下)            吉本ばなな  角川文庫
07/12 竜馬がゆく(二)           司馬遼太郎  文春文庫
07/13 あかん男                田辺聖子   角川文庫
07/15 ドイツ・イデオロギー          マルクス エンゲルス  岩波文庫
07/18 竜馬がゆく(三)          司馬遼太郎  文春文庫
07/22 緑の家                バルガス=リョサ  新潮文庫
07/24 若い詩人の肖像          伊藤 整  新潮文庫
07/24 竜馬がゆく(四)          司馬遼太郎  文春文庫
07/25 らせん                鈴木光司  角川書店
07/26 TUGUMI             吉本ばなな  中公文庫
07/27 竜馬がゆく(五)          司馬遼太郎  文春文庫
07/29 新宿の万葉集            リービ英雄  朝日新聞社

今月の順位


07/02 竜馬がゆく(一)          司馬遼太郎  文春文庫
     バンコクのとある日本人向けレストランで、小山ゆう画の『おーい竜馬』を先に読んでいたため、竜馬の顔が『がんばれ元気』の堀口元気と同系列の顔に見えて困りました。

07/03 ドストエフスキイ           加賀乙彦   中公新書
     加賀乙彦さんは精神科医でありながら小説家でドストエフスキーがとても好きなひとです。テレビをほとんど見ない私も、この人が講師の時の『人間大学』は見てました。とても明晰な話し方をする、おちついた方です。この本で加賀さんはてんかんをメインに置いて、ドストエフスキーの作品における発作とその影響が作品にもたらした効果について言及されていますが、その明晰な分析を読んでいると、なんか、きっと加賀さん本人の作品は発作的に弾けたりしないんだろうな、と思えて、読む興味が失せる一方、読むのが楽しみになりました。

07/11 もう一つの国            ボールドウィン  集英社文庫
     一部絶版になっているのか、なかなか入手しにくい文庫のこの本、日本を出るちょっと前にGETしました。山田詠美や中上健次の作品にあきらかな影響を与えている作品なので楽しみにしてたのですが、読んでみるとコルタサルの『石蹴り遊び』に近い雰囲気。あまりハマリませんでしたが、以後再読したくなる作品である事は間違いないです。同性愛描写がすごくステキでした。

07/12 アムリタ(下)            吉本ばなな  角川文庫
     吉本ばななの作品は、とても変なヒト達がいっぱい出て来て、冷静に考えてみれば、こんなやついねーよ、と思うのですが、読んでる時にはとてもリアリティがあってなんか突っ込む気にもなりません。良く練られた決めの文章が、同じように良く練られたつかみの文章を経た後にがつん、と来るのでとても良く効きます。もうフラフラです。きっと凄いお稽古を毎日終日積まれているのだろうな、と思いました。あ、そうそう買って来てくれたバンコクで出家済日本人で女子ムエタイ選手のN尼、どうもありがとう。

07/12 竜馬がゆく(二)           司馬遼太郎  文春文庫
     維新前のこの話を読むと、憂国という言葉が頭にちらつきすぐに天皇とか三島由紀夫先生を引き合いに出す右翼少年ぽくなって良くないです。ここまで読んで坂本竜馬はただの天然ではない、という結論に達したのですがそれについてはまた次回。

07/13 あかん男                田辺聖子   角川文庫
     何かあるとすぐに借物のフェミニズムを行使して、女性性に閉じ籠もる感情的な女流が多い中、田辺さんのようにともすればマニフェスト的、とも思えるような視点で男を書ける女流はとても貴重だと思った。

07/15 ドイツ・イデオロギー          マルクス エンゲルス  岩波文庫
     『竜馬がゆく』のお陰ですっかり右翼的になってしまったので、バランスを取るためにこの本を読む事にしました。しかしこの本に書かれている事は、いわゆる日本的右翼とか左翼とかの区分けを越えたところに存在する単なる分析のためのシステムでした。簡単に言えば、マルクスは単純に「数えられるもの」の流れについてこの本の中で理論付けしよううとしたのだと思います。ちょうどこの時期失恋して、失恋という本来「数えられないもの」を「数えられるもの」として分析、処理出来たのであまりイタイ思いをせずに済んで有り難かったです。マルクス主義は、失恋から立ちなおる為にも使えます。すごく便利。

07/18 竜馬がゆく(三)          司馬遼太郎  文春文庫
     竜馬という男は、一見天然に見えるが、経済という、比較的数えやすいもの、を第一に考えていた分、養殖を含んだ天然だったような気もします。なにより人間関係とか恋愛というような数量化しにくいものに対してはほっとき放しだったのがあやしいです。

07/22 緑の家                バルガス=リョサ  新潮文庫
     ああ、そうか、あの時見ていたあそこは大人だけの秘密の世界だったのね、と誰にもある幼い記憶を喚起させてくれる作品です。読んだ事もないクセにこの人が母国ペルーの政治にタッチするのを良くないと思っていた私は、最近再び作品に取り組みはじめたと耳にして喜んであります。がんばって今度こそノーベル賞取って下さい。でも、こっちで会うペルー人が全員、彼でなくフジモリを支持するのはどういう事だろう。作品は別としてやっぱりこんなヤツ大統領にはしたくない、って事かな。対外的にはいーと思うんだけどなぁ、あ、でもやっぱりこんなアナーキーな奴に国任せんのイヤか。

07/24 若い詩人の肖像          伊藤 整  新潮文庫
     ジョイスの作品にタイトルが似てはいるが、内容はあまり似てない。自分が詩人となって世に出るまでの自伝的小説。実名もいっぱい出てくる。ただ、こういったケースの日本的私小説のような感じではなく、世界的なスケールの大きさは感じられる。結論だけ言えば凄く面白かった。なぜこの人が、現在大した評価を得ていないか、謎に思って色々調べてある程度信憑性のある予想を得たが、ここには書かない。予想はあくまでも予想だもーん。

07/24 竜馬がゆく(四)          司馬遼太郎  文春文庫
     このシリーズはさくっと早く読めるのがいい。佐久間象山とか吉田松陰とか勝海舟とか、素晴らしい知識人がこのシリーズには数多く出て来る。彼らは身体張ってやっていた分、現代日本の知識人に比べて比較するのが申し訳ないほど思想に血が通っている。まったくもって素晴らしい方々だ。私は少なくともオウムと対面するチャンスがあったにもかかわらず、上祐や青山に論破された恥ずかしい知識人達を信用しないし、忘れない。

07/25 らせん                鈴木光司  角川書店
     H社長さんに借りました。いつ読んだか覚えていないが、『リング』の続編。ただ、設定の類似上どうしても、『パラサイト・イヴ』と比較してしまう。えてしてこういった基本的に科学的根拠に基づいたエンターテイメントは後半どうしても荒唐無稽にしてしまわなければオチがつかないものですが、ただどうせ荒唐無稽にしなければならないとわかっているなら、気合入れてそうなる前に読者を離さない為の技術的誠意を見せる必要がある。その点、この作品は非常に誠意があると思った。

07/26 TUGUMI             吉本ばなな  中公文庫
     再読。どうしても読みたくなった。『アムリタ』と比較すると性行為について全くといっていいほど書かれていないが、雰囲気自体や吉本ばななの文章自体は安定したままである。性行為をどうするかは、吉本ばななにとっては踏み絵だった筈だが、それを越えた際に無理と読者に感じさせないというのは吉本ばななの誠意ある姿勢のたまものだろう。売れたり外国で読まれたりするのが当然だと思う。すごく努力をしている人だと思った。

07/27 竜馬がゆく(五)          司馬遼太郎  文春文庫
     実はあまり時代小説というものを読んだことはなかったのだが、司馬遼太郎のものは何となくだが他の時代小説とは明らかに違うだろうな、という気がした。それぞれの人物が持つモチベーションをはっきりさせている為か、いわゆる右翼的に日和見風見鶏的であり故に本当は責められるべき人間に関して司馬遼太郎自身そう悪意を抱いていないような気さえした。

07/29 新宿の万葉集            リービ英雄  朝日新聞社
     読んでて涙が出た。別にただ日本語を流暢に使いこなすユダヤ系アメリカ人が書いたエッセイなのだが、バンコクでタイ語と対峙しながら作品を作っている私のツボに入りまくった。貸してくれた会社のSちゃん、ありがとう、お礼にパソコン買ったら設定タダでやってあげるね。

平成9年7月の1等賞

07/24 若い詩人の肖像          伊藤 整  新潮文庫



平成9年7月の2等賞

07/15 ドイツ・イデオロギー          マルクス エンゲルス  岩波文庫



平成9年7月の次点

07/11 もう一つの国            ボールドウィン  集英社文庫



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