よいこの読書日記−平成9年11月
読んだ本
11/03 ふき寄せ雑文集 岸田秀 文春文庫
11/03 好色の魂 野坂昭如 新潮文庫
11/04 サイダーハウス・ルール(下) ジョン・アーヴィング 文春文庫
11/05 海流のなかの島々(上) ヘミングウェイ 新潮文庫
11/06 哲学の復興 梅原猛 講談社現代新書
11/07 火宅の人(上) 壇一雄 新潮文庫
11/08 タイ語エクスプレス 水野潔/上田玲子他 白水社
11/09 海流のなかの島々(下) ヘミングウェイ 新潮文庫
11/09 かみそりの刃(上) W・S・モーム ちくま文庫
11/11 火宅の人(下) 壇一雄 新潮文庫
11/12 誰がために鐘は鳴る(上) ヘミングウェイ 新潮文庫
11/12 かみそりの刃(下) W・S・モーム ちくま文庫
11/13 口紅と鏡 源氏鶏太 新潮文庫
11/14 楽しい終末 池澤夏樹 文春文庫
11/17 誰がために鐘は鳴る(下) ヘミングウェイ 新潮文庫
11/19 徳川家光(一) 山岡荘八 光文社文庫
11/20 サロメ ワイルド 岩波文庫
11/26 おとうと 幸田文 新潮文庫
11/26 ルバイヤート オマル・ハイヤーム 岩波文庫
11/29 เรียนภาษาญีี่ปุ่ึน ภายไน 48 ชั่วโมง ยูจิโร อิวากิ ดวงกมลสมัย
(48時間で学ぶ日本語 岩城雄次郎)
今月の順位
11/03 ふき寄せ雑文集 岸田秀
文春文庫
この本でしばらく続いた岸田秀の本も最後です。パチらせてくれたDioゲストハウス、そしてどなたか存じませんが、Dioに置いていった方、重ねてありがとう。
で、この本は7ヶ月間つとめた某在泰日系企業を退社後、初めて読了した本なのですが、読み終えたのはバンコク・エアウェイの機内で、文章のリハビリのためにプノンペンに向かう途中でした。飛行機の中ではふだん、お金がないのと個人的に好きなのとで、ぞうさんビールしか飲まない私もシンハビールを4缶もがぶ飲みしてしまい、とてもいい気持ちで読了しました。泥酔していてもちゃんとさらりと読める。いいかんじの軽いエッセイです。
11/03 好色の魂 野坂昭如 新潮文庫
プノンペンにいるあいだ、シュムリアップにも行かずただただ本を読み、日記をつけ、おさんぽして身体を灼くことに専念する事にした私は、入国してまずこの本を読む事にしました。非常に文体に読みやすさが感じられたいい作品でしたが、同時に、出版とは何ぞや、という事について考えさせられてしまい、現代日本の出版事情とそこでデビューしたがるライターだかクリエイターだかジャーナリストだかフォトグラファーだか作家志望だかの方々に対して、日頃以上のバカバカしさを強く感じてしまいました。よーするに自分で書いて自分で刷って自分で売っちゃって、それが商品としてお客様に必要とされればいいんじゃん? 自己責任でやる分には人に迷惑かけないしね。間違ってるかな、この考え方。
11/04 サイダーハウス・ルール(下) ジョン・アーヴィング 文春文庫
読み終わってすぐキャピトールカフェの真向かいにゆで卵を食いにいくとその卵が孵化しかけの鶏じみた形をしているのは何か非常に暗示的だと思った。妊娠中絶と堕胎についてのおはなし。最近ビルマ人の友達が近所に越して来たり、前の会社にて働いていた日本語バリバリのビルマ人の先輩と仲良かったりしたので、ビルマの描写も面白く読めた。しかし妊娠、堕胎に先がけて行われる性行為というのはますますもって課題だと思いを新たにする私ではある。
11/05 海流のなかの島々(上) ヘミングウェイ 新潮文庫
久しぶりに読むなぁ。ヘミングウェイ。かつてはミヤギテレビ杯の控室で読んだ『老人と海』に勇気づけられ中量級でベスト4に入ったこともあったというのに。昔日の思いだわ、と思ったら、今、たまに思い出してタイ語版の"犂靨シィュキミ倏"タイ語の表示方法はここから
を読んでいる事に気付く。ちなみに『老人と海』のタイ語題は『海と戦うジジイ』(白石昇訳)です。この長編とは直接、関係はありませんが、この長編の一部が、『老人と海』になるはずだったらしい。
11/06 哲学の復興 梅原猛 講談社現代新書
梅原猛は良くわからない、といってもこの人の文章が良くわからないのではなくて、この人の思想的な立場が私には良くわからない。確かに縄文、弥生文化の分析等は説得力があって面白いのだが、全体的に見てこの人の考えといったものがあまり見えてこない。いったいこの人は哲学者としてどういった思想を持っているのだろうと時折、パッポン通りのゴーゴーバーで、全裸で踊るおねぇちゃんたちの揺れる陰毛を目の前にしながら考えてみたりするのだが、どう考えてもこの人は哲学者というより哲学研究者として考えたほうがしっくりくる。で、この本もご多分にもれず、すばらしい哲学解説書だった。少なくとも私は、この本を読んでデカルトを読みたくなった。
11/07 火宅の人(上) 壇一雄 新潮文庫
おーわださんだんさんおーわださん。連想ゲームで有名な、ゴシップ知らずの大女優壇ふみさんはこの本によると、小さい頃鶏のエサを食って泣きわめいていたらしい。テレビに出たらつっ込んであげたいけど、今後私はテレビで壇ふみさんを見ることが果たしてあるのだろうか? それはそれとしてフランスパンと中華料理が美味しいプノンペンで読んでもこの本に書かれている壇一雄の手料理は、かなりうまそうである。バンコクに戻ったら、市場に行って自炊しようと固く心に誓う私でした。
11/08 タイ語エクスプレス 水野潔/上田玲子他 白水社
6課で6行と7行の間にカイとソムワンはヤってしまったと見るのが正しい読み方だと思うのは私だけだろうか? ちなみに今回の練習問題の正解率は68%。めざせ満点。
しかしなぜプノンペンにまで来てカフェの日なたで身体灼きながらタイ語を勉強しているのだろう私は。
11/09 海流のなかの島々(下) ヘミングウェイ 新潮文庫
どうしてこうきてこうなるのかなぁ、というようなストーリー展開。みなさんお歳を召して来るとだんだん書くものが意外になって、普通に読むと納得できなく且つ難解である、という風になっちゃうのね、と思った。でも、他の作家のお歳を召した大作と同じように、なんかいっぱついいのをかまされた、という感じはした。いっぱつかませるジジイになりたいものです。
11/09 かみそりの刃(上) W・S・モーム ちくま文庫
去年読んだ『人間の絆』がひじょうにツボに入ったのでそうそう期待していなかったが、この作品の方がさらにツボに入った。私小説の方法を採用してはいるが、日本の私小説よりもかなり面白い。私は私小説は作品世界を小さくするような気がして、また読む日本の私小説が次から次へと事実そう面白くもないので私小説について常々否定的だったが、この作品はぜんぜんつまらなくない。日本の私小説って一体何なの? と思えるくらい面白い。
11/11 火宅の人(下) 壇一雄 新潮文庫
「天然の旅情」で自己を肯定しようとする、かなりワガママな一雄ちゃんが憎めないのは、それは彼がホントに天然だから。若い女とツイストの集会に出たり、ニューヨークやパリでバカ騒ぎするとこなど、かなり純度の高い天然だと思った。もしかして一雄ちゃんは、文章が書けなくて野球が出来れば今頃、巨人の監督になっていたっておかしくないくらい天然の人だと思う。
11/12 誰がために鐘は鳴る(上) ヘミングウェイ 新潮文庫
プノンペンは暑い。バンコクより高い建物や排気ガスがなく、とても暑い。かなり暑い。お陰で日向で本読んでる私の肌もすっかりこんがり小麦色になってしまいましたが、頭の方もすっかりオーバーヒート気味。次から次へと読む本の内容がかなりごちゃまぜになってます。で、そんな感じでこの上巻を読んでただ私は、異国での恋愛ってのは大変だなぁ、と我が身を省みてしみじみと思うのでした。
11/12 かみそりの刃(下) W・S・モーム ちくま文庫
あいかわらず私小説的な形式はそのままではあるが、ストーリーは面白い。冷静に考えてみれば、事実をそのまま写していっただけで、虚構と比べてもかなり面白く、現実より面白い作品などそうそうないのではないかとすら思える。そう考えてみると、日本の面白くない私小説は身の回りで起こる面白い事にかなりフタをして、自分中心で都合のいい美意識で成立しているとすら思える。それはそれで凄い事かもしれないが誰もがそんな、それだけで読み手を喜ばせる美意識を持っているとは思えない。中途半端な美意識を見せられる読み手はたまったものではない。面白かったがそれに誘発されて、この作品とはまったく関係のない事について腹が立った。
11/13 口紅と鏡 源氏鶏太 新潮文庫
キャピトール2ゲストハウスの向かいのロンちゃんカフェにあった本。私、実は源氏鶏太の小説がかなり好きかもしれない。特にこの作品は今までに読んだ源氏鶏太の作品中一番良かった。なぜ、日本には知識人的立場からの小説は数多くあっても、知識人よりはるかに、多くいるはずのサラリーマンの小説が少ないのだろう、とOLを3年4ヶ月やった人間としては思う。サラリーマンの生活が知識人の生活に比べて書くに値しない事だとは決して思えない。
11/14 楽しい終末 池澤夏樹 文春文庫
プノンペン最終日に慌てて読了。しかし池澤夏樹が福永武彦の息子だという事をこの本を読んで初めて知った。こういった学者ではない人の終末論らしく、なんの科学的及び宗教的結論も出そうとはしないが、考察が深くて、とても面白かった。
11/17 誰がために鐘は鳴る(下) ヘミングウェイ 新潮文庫
マッチョだよなぁ、ヘミングウェイって。でもこのマッチョが許せるのは、ちゃんと女に対して感情移入し、かつ優しさにスジキンが入ってるからだと思う。でも実際に女を連れて戦争するのはそれはそれでかなりヒドイことかもしれない。
11/19 徳川家光(一) 山岡荘八 光文社文庫
あきらくんが置いてってくれた本、あきらくん、ありがとう。で、山岡荘八というのはかなり面白いガキだったらしい。幼少の折、かなり強く頭を打ったにもかかわらずそれから頭が良くなったらしい。かなり面白いガキである。しかしこの作品においてもかなり頭を打ったぽい文体で書かれていて、台詞が多い。きっと山岡荘八は頭の中でひとり会話を組み上げてはぶつぶつひとり言のようにそれをつぶやいて納得するタイプの天然オヤジだったのだろうな、と思った。
11/20 サロメ ワイルド 岩波文庫
なんかジョイスにしてもそうだけどさ、アイルランドっていろんな変わったひとがいるよね、このワイルドだってホモだしさ。いや、別にホモが悪いってわけじゃないけどなんか、日本にも谷崎潤一郎や三島由紀夫以外にもっと変わったひとがいてもいいと思いました。
11/26 おとうと 幸田文 新潮文庫
実は私、以前にこの作品、NHK FMの「朗読の時間」で断片的に聴いてました。だから、話の流れはひじょうに掴み易かったです。
まったくもってお育ちがおよろしくていらっしゃるお嬢さまが書かれたようなお話なのですが、そのお育ちのおよろしさが自然でとてもよかったです。これが姉弟の設定ではなくて恋人同士という設定だったらきっと、小林旭とか石原裕次郎の日活青春映画みたいになるのだろうな、と思いました。
11/26 ルバイヤート オマル・ハイヤーム 岩波文庫
オマル・ハイヤールというのは11世紀ペルシャの詩人であり数学者である。オマル・ハイヤームにかこつけて他の作品の話をするのは良くないとは思うが、私はサルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち』はかなり好きな作品である。問題になった『悪魔の詩』はどうか知らないがラシュディの姿勢がそう問題だとは思わない、という話をこないだバンコクにいた日本語バリバリのパキスタン系イラン人と話したらかなりモメた。ラシュディがまずいのであればオマル・ハイヤームなんか、今生きてればすぐにでも殺されると思う。それくらいにイスラームの教義をふみこえた表現がみられ、それがまたひじょうにいさぎ良い。でも私はラシュディの作品も好きだけど、男気のあるイスラムの男たちもかなり好きです。過去、パキスタン、イラン、トルコと旅行したときにはかなりお世話になり、ひとかたならぬ敬意を抱いております。いつか必ずや恩返ししようと思っております故、私に死刑宣告したりしないでね。 
11/29 狹ユツケタメノメュユユ霆リ靹ケ タメツ荵 48 ェム霽簔ァ
ツルィヤ篥 ヘヤヌメ。ヤ エヌァ。チナハチムツタイ語の表示方法はここから
(48時間で学ぶ日本語 岩城雄次郎)
タイ語を母国語とする文が日本語を学ぶ為のテキスト。当然私は日本語については言語藝道において最も得意とする技であるから、いまさらあらためて学ぶ必要はないので、タイ語の訳文を書き取っていきました。しかし、おどろいたのはこの本の出版履歴なのですが、かなりの回数長きにわたり版を重ねているようです。日本人同士で強い円からもたらされる大量のバーツをたらいまわししているようなこっちの日本人社会において、タイの人から支持され買ってもらえ続けるいい仕事をするというのは凄い事だと思いました。見習わなくちゃ。
平成9年11月の1等賞
11/09 かみそりの刃(上) W・S・モーム ちくま文庫
11/12 かみそりの刃(下) W・S・モーム ちくま文庫
平成9年11月の2等賞
11/07 火宅の人(上) 壇一雄 新潮文庫
11/11 火宅の人(下) 壇一雄 新潮文庫
平成9年11月の次点
11/13 口紅と鏡 源氏鶏太 新潮文庫
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