よいこの読書日記−平成10年3月


読んだ本

03/12 猫の舌に釘を打て/三重露出  都筑道夫 講談社大衆文学館
03/13 働くということ        黒井千次 講談社現代新書
03/13 僕が本当に若かった頃  大江健三郎 講談社文芸文庫
03/15 いちご同盟          三田誠広 集英社文庫
03/20 絡新婦の理         京極夏彦 講談社ノベルズ
03/20 いたいけな天使たち    斑鳩サハラ 白泉社花丸ノベルズ
03/20 中上健次全集8       中上健次 集英社
03/24 犬が星見た        武田百合子 中公文庫
03/25 夫婦その愛        源氏鶏太 角川文庫
03/26 楢山節考        深沢七郎 新潮文庫

今月の順位


03/12 猫の舌に釘を打て/三重露出  都筑道夫 講談社大衆文学館
     オールスパイスの代表で、都筑道夫の弟子である鈴木様がわざわざ日本から送ってくれた本です。文庫本なのに高いです。まったくもって有り難いことだと思います。この本はどうやらミステリーらしいのですが、ミステリーとしての謎解きよりも、作品の構成と方法に驚かされました。しかしずっと昔に都筑道夫がやっていたような事を、あまりやろうとする人がいないのは問題です。これはいっちょあたしがやったらなあかんな、とキアイが入りました。

03/13 働くということ        黒井千次 講談社現代新書
  
     急性胃炎で入院中、モルヒネで頭がボーっとしたまま読みました。面白かったです。とてもいい本だと思いました。別に日大文芸賞の選考委員で、私の作品を推してくれたから褒めているわけではありませんが、このひとは高学歴のわりに非常にまっとうな考えを持った貴重な方だと思いました。授賞式の時実際にお会いしましたが、かなりナマイキな私の話をちゃんと聞いてくれる度量の広い方でした。他人の金でノーパンしゃぶしゃぶに行く官僚の方達は是非見習って欲しいものです。パンしゃぶは、自分のお金で行きましょう。

03/13 僕が本当に若かった頃  大江健三郎 講談社文芸文庫
     久しぶりにしっとりさせていただきました。健ちゃんは入院している時なんかに読むと、すごくハマって良いです。普段はキライになるときもあるけど、気分的にハマる時にはすごくハマる珍しいタイプの人だとあらためて思いました。

03/15 いちご同盟          三田誠広 集英社文庫
     以前読んだこのひとの『二十七歳』という短編は非常に好きです。でも『僕って何』は嫌い。最近、文藝家協会の掲示板で見たこのひとの発言がよくワケが分からないものだったので、紀伊国屋書店でちゃんとお金出して代表作と言われる作品を買って読んでみようという気になりました。値段は一六〇バーツ、古本ではありません。バンコクでは一六〇バーツもあれば、豚肉が二キロも買えます。しかし、それだけの大出費にも関わらずこの作品には豚肉二〇〇グラム分ほどのカタルシスもありませんでした。
     文藝家協会の掲示板でこのひとが発言していたように、趣味で時代小説を書けるほどの純文学作家の仕事だとはとうてい思えませんでした。私は何が純文学なのかよくわかっていない言語藝術家ですが、どうやらこのひとは純文学作家が時代小説作家よりも偉い、と思っているらしいです。しかしこの作品は、そこまで言うワリには期待したほどの作品ではなく、肉買って食った方が良かったと心底思いました。そういった状況をふまえた上で、私は、この先四年は三田誠広の作品をお金出して買いません。しばらくひとりで三田誠広不買運動をする事にします。

03/20 絡新婦の理         京極夏彦 講談社ノベルズ
     面白かったけど読むのに時間がかかりました。お正月にブラッキーんちに行った時からずっと持ってたので、読むのに二ヶ月以上かかったことになります。フェミニズムに対しての考察等は非常に面白く、興味深く、フェアなのですが、語り自体が作中に出てくる人間の流れを俯瞰しすぎてて、それがいささかファッショ的になっているように感じました。まあ、神の視点で書き、作品の構造が全体的である以上そうなってしまうのはある程度仕方がないのですが、登場人物のことごとくがバカに見えてきます。それでも、登場人物をバカなだけではなく可愛く見せてしまうのは素晴らしい技術だと思いました。すごく品質が高い作品です。

03/20 いたいけな天使たち    斑鳩サハラ 白泉社花丸ノベルズ
     いわゆるジュネ小説といわれる種類の若い男の子のホモセクシュアルを取り扱った作品です。舞台は男子校なのですが、ほとんど全員といっていいほど出てくる男の子はホモセクシュアルです。おそらく斑鳩サハラという人は女性なのだと思いますが、出てくる男の子達の考え方がすごくおちんちん的じゃないです。まるでレディースコミックを読んでいるような新鮮さがありました。

03/20 中上健次全集8       中上健次 集英社
    町よ/物語ソウル
       実際にそこにいなくて、そこの言語を使用していない人間がそこに住む人間のことを書くのは大変なことです。特に、日本語という閉塞された言語手段をもって表現しようとするものにとっては、かなり恐ろしいことだであるような気がします。と、そういった土台をふまえた上で敢えてそれをやった中上健次はある意味それだけでとてもすごいと思うのですが、冷静に考えてみるとそれは、日本以外の言語表現空間においてはそう珍しいことではないような気もします。最近はウィリアム・ギブソンもやっているみたいだし、カズオ・イシグロなんてある意味何書いてもそうでしょう。日本人が日本人と日本だけしか書かないという事もおかしいのではないか思いました。


    天の歌 小説 都はるみ

       小説としてはなんか小説らしくなく、都はるみの評伝としてはなんかちょっと違うように思ったのは、中上健次がこの作品の主題として演歌を文芸と同じ言語藝術のひとつとして同一平面上に見ているからだと思う。


    戯曲

       実際に中上健次がこれらの戯曲をどうしていこう、と考えていたかはよくわからないが、全部まとめて読むと、中上健次はこれらの戯曲群をただ自分の小説を補完するものとしてだけ考えていたのではないことは確かだと思った。個人的にはシナリオ『日輪の翼』は北野武に監督して貰いたい、と思う。

03/24 犬が星見た        武田百合子 中公文庫
     武田百合子は日本を出ても、相変わらず天然大爆発のようです。こういった楽しい相方を持って、武田泰淳もさぞかし幸せだったことでしょう。植谷雄高が生前、あの世で武田百合子をモノにする、といっていた気持ちがよくわかりました。

03/25 夫婦その愛        源氏鶏太 角川文庫
     源氏鶏太の作品に出てくる男の主人公はとても男らしい。かといってマッチョではなく、作品自体が企業内での弱者並びに女に対してとても優しい。今度どうしてそうなのか、じっくり一度考えてみる必要があると思った。

03/26 楢山節考        深沢七郎 新潮文庫
     はじめて読んだが、深沢七郎という人はすごいと思った。作中に楽譜を入れちゃうとこなんか、もの凄い。今、こんなオヤジが日本から出てくるかどうか考えたら、出てこないだろうな、と思う。もうとっくにお亡くなりになっているようだが、いっぺんお会いして話をしてみたかった。きっとぶっ飛んでるオヤジだったのでしょう。

平成10年3月の1等賞

03/13 働くということ        黒井千次 講談社現代新書



平成10年3月の2等賞

03/20 中上健次全集8       中上健次 集英社



平成10年3月の次点

03/20 絡新婦の理         京極夏彦 講談社ノベルズ



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