よいこの読書日記−平成10年5月
読んだ本
05/02 はかない人生 オネッティ 集英社文庫
05/03 崩壊 3 ゴルバチョフ失脚 落合信彦 集英社文庫
05/03 黒い雨 井伏鱒二 新潮文庫
05/04 悲の器 高橋和己 新潮文庫
05/05 群棲 黒井千次 講談社文芸文庫
05/05 夏の流れ・正午なり 丸山健二 講談社文庫
05/10 中上健次全集9 中上健次 集英社
05/26 蛇 ウィモン・サイニムマアン めこん
05/27 無限抱擁 滝井孝作 新潮文庫
05/29 彼方へ 丸谷才一 新潮文庫
今月の順位
05/02 はかない人生 オネッティ 集英社文庫
ラテンアメリカの作品は、何読んでもだいたいレヴェルが高い、もちろん、英語圏に比べて数少ないスペイン語の翻訳者が厳選した上で訳しているのだろうからレヴェルが高いのは当然と言えば当然だろうが、私のツボに入るものが多い。このオネッティも1909年生まれのウルグアイ出身なのだが、なぜアジアの表現者がこの時代に、ラテンアメリカほど豊饒に富んだ作品世界を作ることが出来なかったのか、不思議でしょうがない。私が思っているより南米は藝術に寛容な場所なのかもしれない。自分のツボに入りそうな作品は自分で作るより他にないのかもしれない。
05/03 崩壊 3 ゴルバチョフ失脚 落合信彦 集英社文庫
『ただ、栄光のためでなく』の時に見せた浪花節的ノリが、このシリーズの最後に来て大爆発している。程良くお涙ちょうだいしていて、凄く素敵。この人はこんな胡散臭い国際政治小説を書くよりも、この藝風を極めていった方がよっぽどいいと思った。
05/03 黒い雨 井伏鱒二 新潮文庫
ビザ取りに来たマレーシアで、3冊目に読んだ本。マレーシアでは本だけ読むことにしてました。食事以外どこにも出かけてません。ツボに入ったのは戦時中の食糧事情を記述してある日記の部分。蛋白質性の調味料のあるなしでは貧しい食生活がかなり変わってくるのだな、とバンコクでの自炊生活を省みてそう思いました。
05/04 悲の器 高橋和己 新潮文庫
これは面白かった。どう面白いかというと、作中の人物の意識の流れを一方向から多面的によく俯瞰しているせいで、人を使う立場の人も、使われる立場の人もそれぞれに大変なんだな、と言うことがよく理解できる。知識人には知識人の苦悩もあるようです。知識人って、結構大変なんだな、と思った。
05/05 群棲 黒井千次 講談社文芸文庫
黒井千次は東大出たのにわざわざ富士重工に入って作品を書き続けた、というよくわからない経歴の持ち主なのですが、作品自体もその経歴が反映されているようで反映されていないようなよくわからない謎に包まれています。それは決して難解だとかそういったことではないのですが、作品の雰囲気がなんか奥歯に物が挟まったみたいなすっきりしない謎を感じさせます。じっさいにお会いしたときにはそんなに謎めいている人ではなかったのですが、何となく、いろんな事を書きたかったりいいたかったりするのだけれどもあえて抑制している、と言った感じのじいさんです。ちなみに私は、この連作中、二本めの作品が好きです。
05/05 夏の流れ・正午なり 丸山健二 講談社文庫
丸山健二はもしかしたら日本のどのハードボイルド作家よりもハードボイルドしているのかもしれない。ハードボイルドと言えばチャンドラーとかあのあたりのものになってしまうが、この作品集は別に拳銃とか殺人とかが出てこなくてもハードボイルド足り得るという良い見本のような感じがした。
05/10 中上健次全集9 中上健次 集英社
十九歳のジェィコブ
中上健次は書きすぎた人だと思う。おそらく全作品を通じての謎解き的な作品構成を方法としてもくろんでいたのだろうから、かなりの伏線がいろんな作品の中に散らされてはいるいることが予測される。この作品も例に漏れず、そのようなものの断片が感じられるのだがそれがまだ、わかりやすい形にはなっていなく、それらの伏線達があまり日の目を見ることはなかった。もしそれらがどこかの作品ともう少し明確な形でつながることがあれば、と思ったりするものそれなりに楽しい。
野生の火炎樹
この作品は長編『異族』と繋がっています。それはそれとしてこの作品中においてマウイを見つめる中上の視線は限りなく女の視線に近いものがあります。ともすれば中上はウワサ通りゲイだったのかと思えるほどです。
05/26 蛇 ウィモン・サイニムマアン めこん
タイの農村と寺との関わりについてかかれた小説。宗教というのはお金が必要だが、お金のかからない信仰というものを突き詰めていくと、信仰する個人の姿勢に行き着いてしまい、そうなるともう個人の姿勢そのものがひとつの宗教なのではないかというような生産性のないことを考えさせられてしまった作品。
05/27 無限抱擁 滝井孝作 新潮文庫
基本的に私小説はあまり好きではなく、特に日本の私小説は嫌いなのだが、この作品は私小説としてキアイが凄く感じられたので許す。というより、ちょっと良かった。
05/29 彼方へ 丸谷才一 新潮文庫
基本的に丸谷才一は人間的にあまり好きではないのだが、作品はあまり読んだことはない。それで今回これを読んだのだが、面白いことは面白いが、この人はどうしても女に対してやや類型的な考え方を長い間持っている人だと思う。女権論等に対しての目配りがきくので少しわかりがたいが、根本的には凄いマッチョなような気がした。作品だと、そのあたりのマッチョ加減を探りながら読むのが楽しかったりする。
平成10年5月の1等賞
05/04 悲の器 高橋和己 新潮文庫
平成10年5月の2等賞
05/05 夏の流れ・正午なり 丸山健二 講談社文庫
平成10年5月の次点
05/03 黒い雨 井伏鱒二 新潮文庫
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6月↓
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