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03月06日 豚の戦記 ビオイ=カサレス 集英社文庫 |
ビオイ=カサレスはボルヘスやコルタサルと同じアルゼンチン生まれ。当然この作品の舞台もブエノスアイレスで、出てくるじいさんがラテン系のせいかことごとく元気です。そう考えてみるとどうして日本の作品に出てくるじいさん達は元気がないのかと思いました。元気なじいさん、日本にはいくらでもいるのになあ。そう言うじいさんを作品にすることが出来ないとしたら、これはきっと作品作る側の問題でしょうね。 |
03月08日 妻と私 江藤淳 文藝春秋平成十一年九月号 |
非常によくできた私小説でした。作者の江藤淳はよっぽど奥さんを愛していらっしゃったようで、この作品を完成させてしばらくしてから自殺されました。何かヘタれてるようで納得が行かない自殺なのですが、やっぱり相方がいなくなると人間と言うものは凄く淋しいのだろうな、と妙に納得が行く作品でした。 |
03月09日 次郎物語(一) 下村湖人 角川文庫 |
次郎君はとても悪い子です。悪い子なんですけど悪い子になるにはそれ相応の理由があって境遇とかその他の問題があるのですが、下村湖人は別にその境遇のせいにしたり、かといって次郎をただ悪い子にしたりはしません。だから次郎君は実はとてもいい子だったりします。このあたりのバランスがとても絶妙だと思いました。偉いなあ、下村湖人。 |
03月16日 クリスマス・ツリー ミシェル・バタイユ 角川文庫 |
先月の『ふたりのイーダ』に続いての核モノ。非常に悲しいお話なのだが、どうしても悲しい気分になれない。おかしいなあ、こんなに可哀想なのに、と思いながら読み終えてしまった。納得がいかなかったのでおそらくこれは旅先で読む種類のお話ではないのかもしれない、と言うことにした。 |
03月17日 次郎物語(二) 下村湖人 角川文庫 |
次郎の母ちゃんが死んで、学者だったお父ちゃんが、いきなりやめて酒屋になる。で、なんやかんやで次郎が入試に失敗して一浪するんだけど、それにつれてだんだんよい子になってゆくので、非常に安心しながら且つわくわくしながら読み進むことが出来る。すげえなあ、下村湖人。 |
03月25日 O嬢の物語 ポーリーヌ・レアージュ 角川文庫 |
勃たない。これじゃヌケない。でも、そんなにいやらしくないかといえば十分過ぎるほどいやらしいし、面白くないかと言えばそれなりに面白い。それでいてストレスは貯めずにある程度のカタルシスは得られる。この作品をどう判断したらいいのか困ったのでとりあえず翻訳者が偉い、と言うことにする。澁澤龍彦素敵。 |
03月25日 次郎物語(三) 下村湖人 角川文庫 |
何故か表紙には蝶ネクタイ締めたヒロミゴーが屋根の上に登ってるぞ。どうやら映画版にはヒロミゴーが出ているらしい。そして何故か中学生になった次郎はホモっぽくなり、朝倉先生ラブラブになってしまう。もしかしたら映画では表紙で白い服着て屋根に登っている蝶ネクタイのヒロミゴーが朝倉先生なのかもしれない。そうなると次郎が同性である朝倉先生にラブラブになってしまうのも何となく頷けるような気がした。懐深いなあ、下村湖人。 |
03月26日 リア王 シェイクスピア 新潮文庫 |
なんかいつの間にか姉妹どんぶりかましているエドマンドはとてもいい男なのだろうと思うと共に、とても羨ましく思えた。しかし何故シェイクスピアの悲劇というものは何となく似た読後感を感じてしまうのだろう。何故かよく考えてみたが、よくよく考えてみるとそれがお芝居というはかない表現媒体そのもののような気がした。だってナマで見てそれで終わりだもんなあ芝居って基本的に。はかないなあ。 |
03月27日 次郎物語(四) 下村湖人 角川文庫 |
同性愛高じて次郎は、朝倉先生のために運動を起こします。そう、この巻ではいきなりこの『次郎物語』が政治小説になってしまいます。しかし、こういった政治的な運動は得てして上手くまとまりまりません。まあ、三田誠広の『僕って何』みたいに、ただ何もしないで見ているよりは運動おこした方が人間的にもマシなんだけどね。しかしみんなで何かをやろうとするのは非常に大変なことなのだ、とあらためて思いました。一人でやるのも痛いんだけどね。しかしあと一冊しかないのに話をこんな風にして、一体どこに次郎を連れて行こうというんだ下村湖人。 |
03月29日 欲望という名の電車 テネシー・ウィリアムズ 新潮文庫 |
女主人公ブランチすげえ電波系。見てて痛いぞ。しかしこれほど電波ノリノリだとちょっとだけ羨ましくもある。あたしも一度本気でヒステリー起こしながら出るはずのない大富豪のとこに電話でもしてみたあい。病院に連れてかれるのはいやだけど。あ、そうそう、テネシー・ウィリアムズ、ト書きがとってもツボにはまる。戯曲読んでト書きがこんなにツボに入ったのはじめて。 |
03月29日 次郎物語(五) 下村湖人 角川文庫 |
とうとう朝倉先生はカルトの親玉になります。いや、戦時中だったので結果的にカルトにさせられたと言った方が正しいでしょうか。最終巻まで来て『次郎物語』は立派な宗教思想小説になります。もちろん次郎は朝倉先生の一番弟子、オウムで言うところの正大師的立場です。しかしもう教祖である朝倉先生に対して、同性愛的慕情はありません。あるのはただ朝倉先生の思想に対しての忠誠心ですので、発情期のオスとしてそれなりにちゃんとメスに気を取られたりします。で、最後はこの恋愛宗教思想的な流れを経てヒッピー的になって幕を閉じます。生きていたらきっとこの先を書いたのでしょうけど、まったくもって奥が深いです下村湖人。 |
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