よいこの読書日記−平成12年06月
読んだ本
06月11日 雨・赤毛                 サマセット・モーム   岩波文庫
06月12日 遁走                   安岡章太郎    角川文庫
06月14日 ヘミングウェイ短編集(一)      ヘミングウェイ     新潮文庫
06月18日 くれない                 佐多稲子     新潮文庫
06月21日 悪人への貢物              三好徹      文春文庫
06月22日 黒いスパイ機              福本和也     角川文庫
06月23日 宣言                   有島武郎     岩波文庫
06月25日 みずうみ                 川端康成     角川文庫
今月の順位


06月11日 雨・赤毛                 サマセット・モーム   岩波文庫
 あ、これ三つとも面白い。あのね。ここは俺等の植民地だタイ人なんて下等民族だぜ意識バリバリの日本人が決して少なくないこの国で読むと妙にはまるせいあるけど、ちゃんと三つともオチが付いてる。そしてそのオチがよくはまってる。最近そう言ったオチがちゃんとハマる作品しか製作したくないと思っているので、何かこういうはちゃんとはまってる短いやつ好きなのかもしれません私は。
 
06月12日 遁走                   安岡章太郎    角川文庫
 戦記物であります。読みながら自分は、不覚にもセリーヌの『夜の果ての旅』やヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』などと比較してしまったのですが。日本の軍隊というものは、どうも抗いがたい強い流れの中で物事が動いてゆくようであります。しかし、この作品においてはその流れの中で決してその流れに全権委任せず、内面で主体的に悪態をつく兵隊が書かれているのであります。自分が思うに、この作品の中に出てくる兵隊は誰一人として愛国心などは持ち合わせていないとすら思えたりするのであります。そのあたりが今の日本国と何一つ変わらない気がして面白いのであります。
06月14日 ヘミングウェイ短編集(一)      ヘミングウェイ     新潮文庫
 遊びに来た方が持っていたので何故か二冊あったシェイクスピアの『リア王』と交換しました。アルツの私は時折持っている本を購入します。これはもう病気なので治りません。
 で、これ多分昔読んでるから再読の筈です。私の記憶によれば、新潮と福武の文庫本で読んだかなりの数の作品がカブっているはずです。でも私はつい先月に読んだ『殺し屋』以外は何一つ覚えちゃいないアルツですので、わくわくしながら読み進めました。
 それで私は『白い象のような山々』と『ミシガン湖のほとりで』のオチがよくわかりません。もしかしたらこの二つはオチなど必要としない作品なのかもしれませんが、あるのかないのかはっきりしないので、何となくすっきりしないです。このように私は時折ちゃんと読んでいないことがあります。どなたが解説していただけると有り難いです。
06月18日 くれない                 佐多稲子     新潮文庫
 初めての佐多稲子です。この作品はそして素晴らしくオチがないけど素晴らしい作品です。この作品とてもいやらしいんです。いや別に性行為の描写が微に入り細をうがっていたりしていやらしいんではなくてむしろ逆なのに、すごくいやらしいです。
 女が出来た夫に奥さんが何度かキレてどうしようもなくなった夫がとりあえず奥さん押し倒してやっちゃうのですが、夫ががばっ、と来た瞬間に奥さんの怒りが突然劣情に変わってしまいます。その辺がとても紋切り型なのにもかかわらずいやらしくていいです。
06月21日 悪人への貢物              三好徹      文春文庫
 いや素晴らしく面白くて数時間で読んでしまったのですが、オチが全くわかりません。その後あの謎はどうなったんだろう、と読んだ後に疑問が頭の中を駆けめぐりますが、別に再び読んでその疑問をはっきりさせようとは思いません。どうでもいいことなんですが、突然消えた内縁の妻の顔が村上麗奈としてイメージされたのはそのストーリーの性格のせいでしょうか? とにかくかなり怪しい気がする細かい設定にツッコミを入れようとも思いませんでした。読んでるときは楽しいもん。でも結局どこ行ったんだ村上麗奈?
06月22日 黒いスパイ機              福本和也     角川文庫
 航空ミステリー、とカヴァーの折り返しには書いてありました。とても面白いです。読んでて楽しいです。しかし二日続けて読んで、前日読んだ『悪人への貢物』と内容がすぐに混ざってしまうのはどうしてでしょうか? 私がアルツであるというのが理由の多くではあるのですが、一日に二三冊一気に読んだとしてもそう言うことがないことも多々あるのでこのあたりについてよく考える必要があると思います。今後の課題です。
06月23日 宣言                   有島武郎     岩波文庫
 書簡体。途中まで良く頭に入らなかった。おそらく昭和三十年発行の岩波文庫で旧字体のせいもあるでしょう。いつ買ったか忘れましたが、古本です。あ、盛岡市の吉田千恵子さんお元気ですか? あなたが四十九年前に買った本は何の因果か国境を越えて今私の元にあります。売る本には名前を書かないようにしましょう。
 さて、要するにネタばらしてしまえば漱石の『それから』とか実篤の『友情』と同じパターンですこの話。しかし有島はしっかり左がかった人なので、言うことがいちいちドイツイデオロギー的だったりします。「消費するために消費する典型的な一群は藝術家等だ。彼等は要するに人類中の有力な消費者だ。」と言うセリフが非常にツボに入りました。また、「事業は生産し、藝術は消費する。この意味に於ては神は最大の事業家であり、悪魔は最大の藝術家だ。」ともありましたので藝人である私も間違いなく悪魔なのでしょう。これを読んで私は立派な悪魔として皆様の生産を内面から支える消費をしっかりと形にしてゆかなければと決意を新たにしました。
 
06月25日 みずうみ                 川端康成     角川文庫
  ロリなんだけどね川端だから。もう決めつけ。でもここまでロリで世界に認められたんだから胸張っていいロリだと思う川端は。決めつけ自己容認。ただこの作品、ロリの傾向がこれまでのロリと違うんで、たぶんジジイになってからの仕事だと思ったらまだ五十六歳の時の作品。
 ちょっと調べてみたら僕が読んできた川端の作品はことごとくこの作品の前に書かれたもの。おかしいなあ、ジジイ臭かったのになあ。なんか書かれた年順にみてみたらこのジジイ臭さに何かしらの流れがあるのかと思ったけど全くなかった。もしかしたら川端康成という人は真面目な中間管理職がつい出来心を止められず電車の中で痴漢してしまうように何年かに一度、作品で毒を吐いてたのかもしれないと思った。まあこれも僕の決めつけで根拠は全くないけどね。
 

成12年06月の順位
一等賞
06月18日 くれない                 佐多稲子     新潮文庫
弐等賞
06月23日 宣言                   有島武郎     岩波文庫
次点 
06月11日 雨・赤毛                 サマセット・モーム   岩波文庫
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