藝道日記。(平成 12/05/12)
平成十二年五月十二日(金)。

「どうして日本の女はあんななんだ!」

「あんなってどんな?」

「何度もメールで気持ちを確認したし、何度もセックスしたし、島に遊びに行ったときだって、費用は何千バーツも俺が出したのに。タイに留学に来た途端何ですぐ心が変わるんだ?」

「知るか。お前等英語で会話してたんだろ? 英語で話している限り、それは彼女にとって別の言葉であって、自分の意志としての言葉じゃない」

「タイ人だったらそんなの何語だって関係ない」

「あるんだよ。それに彼女はタイに旅行で来ているときに知り合ったんだろ? 基本的に日本人は旅行中は正常な心理状態じゃない傾向が強い。それは昔から言われていることだ。語学留学に来て、こっちで生活してみてちょっと心理状態が正常に戻ったんじゃないのか?」

「そんなの関係ないよ」

「いやお前だってラオスに遊びに行ったときはいつもより金使っただろ? それと同じ感覚、普通じゃないの旅行中は」

「あんなに愛してるって言ってたのに。どうしてこんななんだよ日本人の女は」

「だから知らないって俺は彼女じゃないもん。それにな、お前言葉関係ないって言ったけどお前が、日本の女、って言い方する限り、言葉の上ではお前が日本の女をひと括りに考えているって事で、軽く見ているってことと同じなんだからな」

「俺は軽く見てなんかいないよ」

「そう自分で思っているだけ、じゃあ何でそんなに日本の女にこだわる?」 
 



 ずっと以上のような会話が続き、まあいい経験だと思っていい想い出にしてとっとと忘れてしまいなさい、という結論に私がまとめようとすると某サイヴァーカフェネットワーク管理者は、そうだなまたかわいい日本人の女見つけるよ、と一瞬だけ懲りてない発言かましやがるものの、やはり一度心の中で火が着いた憎しみは消えるはずもなく、また同じような質問を私に投げ始めた。いつ果てるともしれない生産性のない問答が再び始まる。 

 ビールを奢って貰っている立場で非常に冷たい受け答えをしている、と我ながら思ったが、そもそも、私にそんなことを愚痴ったってそう言う風に言い返されることがわかっているのだから、某サイヴァーカフェネットワーク管理者もマゾヒズム的にタチが悪い。個人の恋愛を国籍含めてその他の属性のせいにする人間に対して、私が鬼のように冷酷だと言うことは、私という人間と少し付き合って見ればわかることだと思う。恋愛は一対一のハンデなし、ってのがあたしの考えなの。


 と、いう状況をふまえて私はその某サイヴァーカフェネットワーク管理者に今日自分が言ったことを私のサイトにちゃんと書くように言われる。まったく愛が憎しみに変わると言うことはこういうことだと思いながら、一応話は恨みがましく落ち着いた。で、一応こんな風に書いてみましたが、こんなもんでよろしかったでしょうか? 

 その後二時半に三人で屋台に行き飯を食う。胡瓜炒めゆで卵フライ甘酢にその他を食う。さっきビール奢って貰ったので一〇〇バーツ分払う。それから車で王宮前の通りまで送ってもらうが、三時前には家に戻るバスも少ないことからまたカオサンまで歩いて戻る。 

 なんか一方的に愚痴聞いて気分が重かったので、せっかくだから午前三時に仕事が終わるマヌー君のすがすがしい笑顔でも見ていこう、と思って、と言うよりバスが本格的に動き始める五時過ぎまでマヌー君と暇が潰せないか探るために行く。しかしすかさずマヌー君につかまり、恋人と日本の男友達にメールを代打ちしてくれと頼まれて、しばらくの間代打ちする。 
 



 その後マヌー君とマヌー君の大親友と三人でタクシーに乗り近くのカラオケ屋へ。ホントーンソーダで割って飲みながら、カラバオ、Ford,Blackhead歌う。五時過ぎあたりはもう明るい。 

 バスに乗っておうちへ。着いたの七時頃。愚痴を聞きまくってまだ疲れていたので十三時ぐらいまでぐっすり寝る。 

 起きてすかさず水浴びしてチャリに乗り市場へ行き、バスで再びカオサンへ。テラスゲストハウスの電話を使わせて貰い、メルマガ作り更新する予定が通信速度が全然遅い。アカウントが切れたのだと思い諦める。昨日約束したギター少女は見つからず。 
 


 知人とイサーン屋台で飯。ビール飲む。餅米二皿、焼き鳥ガイヤーン、モツスープトムクルアンナイ、肝臓焼きタップヤーン、あと筍料理名知らず食う。胃が小さくなっているので全部食うのに死にそうになる。 

 何故かそこでへろへろさん(仮名)とばったり会う。へろへろさん(仮名)は十一年前に初めて私が渡泰したときにとある冷気茶室で会った私よりずっと年上の人なのだが、当時大麻吸引やヘロインが好きでいつもニコニコしながらへろへろとしていた。 

 何年かに一回、思い出したようにカオサンで出会ったりする人である。何故かただそれだけの関係である。へろへろさん(仮名)と呼んでいるが、もちろん私は彼の本名も知らないし、何をしていてどこに住んでいる人かも知らない。 
 



 たまにこういったよくわからない顔見知りが見つかったりするのがカオサンのカオサンたるところだと思う。でもよくよく考えてみたら私もカオサンではいろんな人にとって私にとってのへろへろさん(仮名)みたいなものなのかもしれないなと思う。 

 満腹のまま死にそうなのでテラスゲストハウスで少し横になる。長期旅行者の方が日本の食材をくれる。お好みソースとか青海苔、マヨネーズ、麻婆豆腐の素、天かす、干し貝柱など。なんでそんなものを持っているのか謎なので聞くと、テラスゲストハウスでリンダ姉さんに日本食を振る舞うために日本から持ってきたそうだ。なんと奇特な人だ、と思いながら有り難く戴く。 
 


いただきもの一覧。


 エアコンバス十二バーツでおうちに帰る。市場に行くとちゃんと自転車はあったが、すっかり夜なので玉子屋のおばちゃんはもういない。自転車の鍵を外していると野菜の選別をしている八百屋のおばちゃんに、何買うねん、と突っ込まれるが何も買わないので照れ笑いしてその場を去る。 

 家に戻って接続すると相変わらず通信速度は遅い。もしかしたら通信時間が切れたのかもしれないと思う。一ヶ月以上使っているからその可能性は大きい。新しいアカウントを買いに行かなければと思う。犬から電話あり。馬鹿話してから寝る。 
 

平成十二年五月十一日に戻る。平成十二年五月十三日に続く。
 
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