よいこの読書日記−平成13年01月

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読んだ本
01月05日 アンナ・カレーニナ(下)          トルストイ 新潮文庫
01月08日 豚の報い                  又吉栄喜  文藝春秋
01月11日 息子と恋人(中)              D.H.ロレンス 角川文庫
01月16日 さまよえる湖                スウェン・ヘディン  角川文庫
01月19日 息子と恋人(下)              D.H.ロレンス 角川文庫
01月24日 長崎ぶらり散歩              原田博二 親和文庫
01月25日 走る家族                  黒井千次 集英社文庫
01月27日 私の詩と真実               河上徹太郎 新潮社
01月31日 星と舵                    石原慎太郎 新潮文庫
今月の順位


01月05日 アンナ・カレーニナ(下)          トルストイ 新潮文庫
 これを読んでわたくしは、世の中を幸せにする、と言うことは自分を幸せにする、と言うことと相反するようになるのだな、となんとなく思ったりしたのです。何故かこのお話が悲劇的な結末なのにそんなに悲劇的に感じないというのはその相反した自己撞着を抱えた登場人物が悲劇を締くくったからではないかとも思ったりしたのです。
 で、結論として、たくさんの人が出てくる長いお話では、誰が終幕近くを締めるか、と言うのはとても大切なことなのだと思いました。
01月08日 豚の報い                  又吉栄喜  文藝春秋
 悪い作品ではないのだけれど、もういいかげん沖縄的な題材には飽きた、と言うのが正直な感想。収録されているどちらの作品とも、沖縄的な題材、問題、気質などなしには成立しないと思う。もしかしたら沖縄的なものを沖縄の人間が現代日本語で語るという行為自体がもう限界なのかもしれないと思った。
01月11日 息子と恋人(中)              D.H.ロレンス 角川文庫
 芸術家嗜好を持つ息子はやがて恋愛などします。そしてやがて絵がけっこうな値で売れるのですが、それから別の女に目移りし始めてやがて別れます。絵が売れたことが直接の原因ではないようなのですが、もしかしたら結局それが原因なのかもしれません。
 わたくしも読んでて彼が女と別れた方が良かったのか悪かったのかよくわからなくなりました。
01月16日 さまよえる湖                スウェン・ヘディン  角川文庫
 やはりどう考えても探検家とか旅行家というのはある種機密諜報業務を同時に執り行っていると考えるのが自然なようだ。このヘディンもそうだが芭蕉も伊能忠敬もみいんな、何かしらお上の思惑と自分の意思を融合させて旅をしている。
 まあ、そういった緊張感あってはじめて旅の記録というものは優れたものになるのだと考えれば、誰もが簡単に何の責任もなく旅に出る事が可能な現代が一番、旅の記録の品質が劣化しているのだろうと我が事を省みながらそう思った。
01月19日 息子と恋人(下)              D.H.ロレンス 角川文庫
 結局息子はどっちつかずでヘタレます。ヘタレた上に母親とも別れなければならなくなってしまうのです。藝の道に生きる者としてとりあえず父親のあとに母親を殺し損ねたのが彼の敗因だったと思いました。まあ、父親や母親に何らかの殺人的決着をつけなくても世の中幸せに暮らしている人はいくらでもいるのですから、それはそれで構わないのですが、それをひとつの表現として形にされると非常につらいものがありました。よくよく考えるとわたくしもそろそろ母親を殺さねばならない時期のようです。
01月24日 長崎ぶらり散歩              原田博二 親和文庫
 書かれたものをよりよく伝えるために紙媒体だとか、デジタルだとかいう風な属性に分けて表現形式を選択するとするならば、この本は間違いなくデジタル的だと思う。長崎県内に位置している街道毎にその地名を挙げ、そこに関する細かいエピソードを記してあるのだが、そのエピソード毎に全くと言っていいほど繋がりがなく短いので、地図をおいといてそこをクリックするとそれが読める、という形式にすればいいと思った。内容については、金鍔次兵衛という人が印象に残ったが、これを書いている今、すでに何をした人なのか忘れていたりする。
01月25日 走る家族                  黒井千次 集英社文庫
 コルタサルの短編集の中にもこんな風に移動する車中でのお話があったような気がする。まずそれを思い出した。相変わらず黒井千次(敬称略)はこの世の中に住む大多数の視線で物事を見ている。しかしそれなのにどうしてあまり売れないのだろう、と考えてよくよく考えてみればひとの作品の売れ行きなどを心配している余裕なんか私にはないと考え直した。
 両作品の中にサラリーマンの性的妄想のようなものが書かれているがそれが妙にリアルでツボにはいった。勤め人の妄想は勤め人をしていないと見えないこともあるようだ。
01月27日 私の詩と真実               河上徹太郎 新潮社
 昭和二十九年発行新潮社の一時間文庫、というシリーズらしい。末尾の広告を見ると、この一時間文庫にはとても素敵な書物が多数収められている。クリスチァン・デオィール著朝吹登水子訳『私は流行を作る』、読みてえ。ヘンリー・ミラー著吉田健一訳『性の世界』すげえ読みてえ。ジェームズ・サーバー著福田恆存訳『SEXは必要か』、頼む誰か俺に読ませてくれ。作者と題名も素晴らしいが訳者もそれに劣らず素晴らしい。
 そう言った前衛的なラインアップの中にこの本はあるのだが、実はこれ、近所に住むちょっと左がかった還暦過ぎの元公務員に貸していただいた。結論として四十年以上前の評論というものは今の評論というものとあまり変わっていないような感じがした。しかし、左がかった方というのはどうしてこんなに本に線を引くのだろうか? どうせ本人が繰り返し読むことはないだろうから、こっそりと消しゴムで全部消しておいたが、たぶんずっと気づかないだろうなあ。
01月31日 星と舵                    石原慎太郎 新潮文庫
 非常に行程がよくわからない海洋小説だという印象を受けた。なんとなく、強姦がない西村寿行、って感じもする。同じ作者の『太陽の季節』とも必要以上に似た読後感を感じた。結局、総合的にそう感じさせるのがこの人の魅力なのかもしれない。それならなんとなく一般受けする理由もよく解る。

成13年01月の順位
一等賞
11月31日 アンナ・カレーニナ(上)          トルストイ 新潮文庫
12月19日 アンナ・カレーニナ(中)          トルストイ 新潮文庫
01月05日 アンナ・カレーニナ(下)          トルストイ 新潮文庫
弐等賞
12月25日 息子と恋人(上)              D.H.ロレンス 角川文庫
01月11日 息子と恋人(中)              D.H.ロレンス 角川文庫
01月19日 息子と恋人(下)              D.H.ロレンス 角川文庫
次点 
01月25日 走る家族                  黒井千次 集英社文庫
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