よいこの読書日記−平成13年05月

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読んだ本
05月02日 寓話 下              ウイリアム・フォークナー 岩波文庫
05月02日 ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編   村上春樹 新潮文庫
05月03日 人間の証明                     森村誠一 角川文庫
05月03日 徹子の部屋 4                   黒柳徹子 テレビ朝日
05月05日 ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編    村上春樹 新潮文庫
05月12日 全訳 源氏物語 下巻              与謝野晶子訳 角川文庫
05月14日 ヘッセ詩集                     ヘッセ 新潮文庫
05月15日 悪魔のいる天国                  星新一 新潮文庫
05月16日 華麗なる割腹                    南條範夫 光文社時代小説文庫
05月17日 取り替え子 チェンジリング             大江健三郎 新潮文庫
05月18日 山椒太夫・高瀬舟                 森鴎外 新潮文庫
05月19日 剣客商売 陽炎の男               池波正太郎 新潮文庫
05月23日 知と愛                        H・ヘッセ 角川文庫
05月26日 夜間飛行殺人事件                西村京太郎 光文社文庫
今月の順位


05月02日 寓話 下              ウイリアム・フォークナー 岩波文庫
 島に行って誕生日が終わり、泊めて貰っていた友人宅のソファーで読み終えた。非常に良かった。良かったとかわかったとか軽々しく言えないくらい凄く丁寧に作られた作品だった。例えば人間が生きていくに於いてひとつの衝撃的体験が戦争であるとするなら、フォークナーはそれを表現者として非常に巧く吸収し消化しているのだと思った。頭でも身体でもわかっていて作品を両方でコントロールすることはとても難しいのだ。
05月02日 ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編   村上春樹 新潮文庫
 これも友人宅のソファーに寝転がって読み終えた。このソファーはまるで僕のために用意されたかのように寝心地がいい。で、この作品なのだが非常に嫌なのだけど読み進めてしまう。読みながら僕は主人公に共感しているのだ。やれやれ。
 この種の厭世主義的なスタンスの取り方はある程度産業社会が成熟してくると誰もが持つ種類のスタンスなのだと思うが、それをずっと前面に出すやり方はいただけない。しかしそれが作者の構成力が巧くなってゆくに連れてそのスタンスを際だたせることになってくる。実に周到なやり方だと思う。
 オーケー。認めよう。僕はそんな村上春樹を憎んでいる。
05月03日 人間の証明                     森村誠一 角川文庫
 村上春樹に比べると、とても簡潔だ森村誠一は。計算された投げっぱなしなど絶対にやったりしない。ちゃんとある種のスジを通してくれる。この作品は今までに読んだ森村誠一の作品の中で一番面白かった。基本的に長い作品の構成に対する姿勢は村上春樹と変わらないのだが、なんとなくこっちの方が誠意があるように思えた。
 関係ないけど島に行くバスの屋根でずぶ濡れになったこの本のページをめくるのはとても楽しい作業だった。
05月03日 徹子の部屋 4                   黒柳徹子 テレビ朝日
 島にいらっしゃる皆様のご厚意でダイビングの船に乗せていただきましたので、その船のハンモックに揺られながら読了いたしました。
 そうですあの人気番組です。あの人気番組がこうして活字になってみると、徹子は結構きわどいです。番組を見ればよくわかるのですが、ガラスのテーブルにはびっちりと台本が貼られています。
 おそらく構成作家の方が時間内にきわどいところをつつけるように、かなり考えて台本を練っているのかもしれません。放送を見るとそう感じないのかもしれませんが、本になったものを読んでみると躁状態の北杜夫は凄く鬼気迫るものがあるし、宇野千代の発情ぶりはイカしてますし、王貞治はちょっと下世話な中小企業の社長みたいです。
05月05日 ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編    村上春樹 新潮文庫
 とりあえず結論づけることにする。ミステリとしては凄い大失敗作。謎が全部解明されてない。もしかしたら全部の謎を解明する気などなく、村上春樹はただ刺激的な展開を優先して作品を作っているだけなのかもしれないと私は思った。つくりは周到なのだけれども、これ、世界中で農畜林水産業を日々営んでいる方々が読んだら、ワケわからないまま怒りだしてしまうのではないか、と思う。
 だって農畜林水産業を営んでいる方がこの主人公に共感できるはずはない。しかし、農畜林水産業を営んでいる方が納得が行く作品をどう作ればいいか、と思うと私にはすぐには思いつけない。
05月12日 全訳 源氏物語 下巻              与謝野晶子訳 角川文庫
 要するに歌を詠むのが巧いとモテるらしいです。光源氏も息子の薫もそりゃあもうおモテになります。ほとんど人でなしの振る舞いをしてお姉ちゃん達が世をはかなんで自殺しようとしたり、出家したりするほどおモテになるのです。しかし詩を詠むのが巧いだけでそんなにおモテになるのかと言えばけしてそうではなく、やはりそこにはいい服を着てるとかいい家の生まれたとか、いい地位にあるとかそういうことがあるみたいです。
 私はなんとなく仕事上歌を詠むのが巧くなろうと思っておるのですが、歌が巧いだけでモテる事はほとんどないであろうという現実をこの長い長いお話によって知ってしまい、世をはかなんで出家したくなりました。
05月14日 ヘッセ詩集                     ヘッセ 新潮文庫
 独りよがりです初期の詩は。ネットに何万編と転がっている主観的な詩と何ら変わりません。しかし、その独りよがりが三十年以上に渡って続けられるとそれはもうその主観を客観視して主観にして見せたり、技術的にぼかしたり出来るようになります。こんなに手を変え品を変え詩と小説の両面で独りよがりさを徹底して追求されるとさすがにその主観的に独りよがりで可哀想な立場を肯定したくさえなってきます。結論としてヘッセの詩集は読後の感覚が村上春樹に似ていることに気づきました。
05月15日 悪魔のいる天国                  星新一 新潮文庫
 どうやら私は長い間星新一に対してある種の偏見を抱いていたのだと言うことが判明いたしました。過去にちょっと読んだだけで私は星新一の作品をある種、子供が食べるたまごボーロみたいな物だと思っていたのです。いや実際基本的にはたまごボーロなのですが、どうやらこのたまごボーロの中には時折、山葵や唐辛子が入ってたりするようです。決めつけててごめんなさい。
05月16日 華麗なる割腹                    南條範夫 光文社時代小説文庫
  短編集。いきなりたくさん人が死にます。劇場版『伝説巨神イデオン』を思い出すほど立てつづけにそして大量に死んでゆきます。よく見てみると最初の短編の題は『一族自刃、八百七十名』となっています。わかりやすいです。
 たかだか三十六頁の短編中で本当は何人死んだか数える気も起きないほどド派手にみんな死んでしまうと、次からはしんみりと一人の割腹に照準を当てた短編が続きます。三島由紀夫の切腹直後に切腹縛りで短編を書いてくれ、と注文されて書いたらしいのですが、あとがきを見てみるとそのうちの三編が同じ月、あとの二編がその三カ月以内に発表されています。いろんなパターンで切腹を書き分けるのもすごいですが、なによりこんな注文を四つも五つも引き受けるのがすごいと思いました。これこそプロです。
05月17日 取り替え子 チェンジリング             大江健三郎 新潮文庫
 今回の健ちゃんはほどよいです。いつものようにぐねぐねと迂回する文体は変わらないのですがなんか程良く頭に入ります。これがある種のノンフィクション的作品となっていて、出てくる人の顔がイメージしやすいのが原因かなと思ったら、何だこれ三人称で書いてんじゃん健ちゃん珍しく。
 さて、ノンフィクション的作品なのは明らかなこの作品なのですが、有名人である人物がほぼ特定される書き方で何人も登場してきます。しかし健ちゃんはいつものようにあちこちを一生懸命ぐねぐねとアストロニエニエしまくっているので、なんとか嘘八百として納得して読んでいたのですが終盤にで一頁だけ絵が入ります。それが微妙な似せ具合で明らかにあの人なのです。
 せっかく嘘八百として楽しんでたのにこの絵を見た瞬間、なんか激しく納得できないものを感じました。ほとんどご立腹です。何でこの絵入れたりしたんでしょう? 
 しかし、どうして高倉健だけ実名なの?
05月18日 山椒太夫・高瀬舟                 森鴎外 新潮文庫
 鴎外ってすごいなあ。良くいろんなの書けるよなあ。偉いなあ。と思いながら読み進めていったら『二人の友』と言う短編になった。近代流麗な日本語で書かれているのだがその内容を読んで百年前のドイツ語学習者は現在の泰語学習者である私よりはるかに頑張っているのだなあ、と思った。
05月19日 剣客商売 陽炎の男               池波正太郎 新潮文庫
 シリーズ第三作らしい。たいていこういったシリーズ物を読むと頭に入らないのだが何故か今回は頭に入ったのであららこれはきっと池波正太郎の文章がいいのだなと思ったのですがよくよく考えてみたら今月は江戸時代のお話読むの三冊目じゃんそりゃあどうして頭に入るよなあいくらアルツでもと言う結論に達したからとりあえずもう一冊今月中に江戸のヤツよんどこうかなと思わせるくらいいい作品だった。しかしそう色っぽいシーンが強調されているわけでもないのに出てくる女全員に妙な色気があるのは何故だ?
05月23日 知と愛                        H・ヘッセ 角川文庫
 ゴルトムントが何故もてるか? と言うことには一切言及していないが、とにかくゴルトムントは放浪しながらやりまくり。まるで本宮ひろ志著『俺の空』安田一平のような後腐れない都合のいい展開が次々と表出する。姉妹どんぶり未遂や人妻姦通などを経て、いったん芸術家として彫刻にハマりいい仕事はするものの、やはり漂泊の思い止まず再び出てったところを女の謀略にはまり捕まって大ボスと対決、と言う展開。
 その大ボスが思いもかけない人物だというのはまあ素晴らしく古典的パターンなのだが、そんなことよりなによりも、つくづく思ったのは性愛描写に具体性がなくてもヘッセが書く描写寸止め性交は妙にいやらしくそそる、と言うことだった。冷静に考えてみれば『車輪の下』も『シッタールダ』もそうだった。ヘッセの作品はヌケる作品だとつくづく思った。
(もうちょっと詳しい感想)
05月26日 夜間飛行殺人事件                西村京太郎 光文社文庫
 十津川警部結婚です。新婚旅行に出かけます。奥さんキュートです。なんかいいなあこの奥さん、って思ってたら奥さんじきにいなくなります。そして事件は急展開、素晴らしくスケールが大きくなり、大がかりになってゆきます。西村京太郎というのはこんなに大がかりだったりするのかとあらためて思うほどです。
 しかし、個人的には奥さんが途中から出てこなくなるのがとても残念だったりしました

成13年05月の順位
一等賞
04月19日 寓話 上               ウイリアム・フォークナー 岩波文庫
05月02日 寓話 下               ウイリアム・フォークナー 岩波文庫
弐等賞
02月15日 全訳 源氏物語 上巻               与謝野晶子訳 角川文庫
04月29日 全訳 源氏物語 中巻               与謝野晶子訳 角川文庫
05月12日 全訳 源氏物語 下巻               与謝野晶子訳 角川文庫
次点 
04月26日 ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編  村上春樹 新潮文庫
05月02日 ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編   村上春樹 新潮文庫
05月05日 ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編    村上春樹 新潮文庫
04月↑
06月↓
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